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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1234/1603

5C

「定期的に、見ていましたね」


 壁の外に出た瞬間にそう呟くと、城壁の上から裸体に拘束具を纏ったアルマが降りてきた。


「気付いてたんだ」

「はい……ですが、あなたは忍び込み、誰かを殺そうとはしなかった」

「うん」

「何故ですか」

「なんとなく」

「騎士に恨みを持っているんですね。あなたを傷つけた騎士に」


 アルマは明確に嫌悪感を滲ませたが、すぐに明るい笑みを――冗談のような笑みを見せた。


「なんのこと? アルマ分かんない」

「教会は騎士を焚きつけ、あなたを襲わせた」

「……」

「騎士が悪くはない、と言うつもりはありません。彼らにも根源があった。しかし――」

「正直、どうでもいいこと。ほんとーにどうでもいいこと。あたしが滅茶苦茶にされただの、穢れただの、もうどうでもいいことなの」


 シナヴァリアは彼女の顔をじっと見つめた。

 多くの人間を見て、それを管理してきた男は、彼女の発言が全くの嘘ではないと見た。


「本当は、ただ力が欲しかっただけなの」

「あなたは強さを持っていた」

「まっさかぁ?」

「優しさという強さを持っていた。私の持っていない力だ」

「それが、私の一番嫌いな……大っ嫌いな力だったの。ただ優しいだけじゃ、何もできない。誰も助けられないし、何も解決できない――できなかった!」


 彼女が魔物を受け入れた本質は、男達に犯されたことなどではなかった。

 結局のところ、あの行為の末に、彼女は自分の無力感を再確認した。

 幾度も幾度も感じ続けていたそれを、己の身を持って真に理解したのだ。


 そして、それを覆す機会を得たからこそ、彼女はそれに乗っただけだった。


「……でも、今は違うよ。あたしはみんなを助けられる。あたしの仲間を、この手で守れる……これほど嬉しいことはないの」

「あなたは人間だ」

「フフッ……あたしが人間? そんなわけないじゃない」

「人を殺めることは悪しきことだ。しかし、それで人間でなくなるわけではない」

「倫理のお話? アルマ、そういうの嫌いなんだよね」

「……」

「それに、そういう話じゃないの。アルマはもう、本当に人間じゃないの」


 シナヴァリアは目を大きく見開いた。


「あたしの体は……このちっちゃい体の、皮の下はもう」


 彼女が胸の部分を締め上げていた拘束具を無理矢理引き剥がすと、どろどろに溶けた黒い何かが窺えた。

 それは血などではなかった。もっと粘り気を帯び、生物としての脈動を感じさせるもの。


(サナギ)ってね、中身がぐちゃぐちゃで、どろどろになって、新しい体を作るんだって。あたしの体も同じ、あと少しで……あたしはこの体を引き裂いて、新しいあたしになるの」


 冷血宰相はことの重要性をついに理解した。

 アルマは本当の意味で、魔物となっていた。


 彼女は人を殺す度に、中身が溶けていたのだ。

 それは自身を真に魔物に作りかえる為の過程であり、快楽もこれが原因であった。

 多くの人間を殺した彼女は、もう人間ではなくなっていた。

 人間であった部分は、もはやこの外側だけだった。


「もう全ては決まっているの。シナヴァリアさん、あなたとあたしは、ここで殺し合うしかないの……魔物と、人間として」


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