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戦いは、何日にも渡って続いた。
シナヴァリアの下した命令は多くの兵が反対――することはなかった。
貴族に連なる騎士達はともかく、国家の軍人達はこれを良しとした。
彼は以前、質問されていた。どうしても退けない場合の対処方法を。
そして、これはその通りの方法だった。だからこそ、彼の講義を受けていた者達は、今こそが存亡の危機だと悟った。
民についても、彼の戦術を呑まざるを得なかった。
誰であっても、このどうしようもない状況を前に、逃げるなどという選択肢を想像できなくなっていたのだ。
このまま行けば、光の国は滅びる。全てが終わる。そう思ったからこそ、逆に絶望を乗り越え――いや、吹っ切れたのだ。
「おい! 救援を呼べ!」
「分かった」
一人の軍人は空に向かって玉を投げた。
それは空中で燃焼し、激しい光を放つ。
しばらくすると、民間人数名が現れ、倒れた兵を担架に乗せて城に向かって戻っていく。
幸いなことに、軍の守るラインは突破されておらず、民の移動には多くの危険があるわけではなかった。
ただし、多くないというだけだった。
「おい、なんか降ってきたぞ!」
「えっ?」
魔物の放った攻撃の流れ弾が、民間人の方に降ってきた。
反応できた二人は避けることができたが、担架を持っていた一人は焼き殺される。
幸か不幸か、軍人自体は攻撃を浴びずに済み、残っていた者が一人の代わりとなって担架を持った。
もう、誰もが死に慣れ始めていた。感覚が麻痺し、意識は遅鈍になっていた。
こうした戦いが既に何日も続いているのだ。犠牲者の数は、決して少なくはない。
そうこうして無事に運び込まれた兵は、門の近くに設営された大きなテントに入れられ、布を引いた床に寝かされた。
「では、治療を開始する」
民間人は何も言わず、出て行く。
最初はあった礼は、もはや言う余裕さえなくなり、両者がそれに疑問を覚えることもなくなっていた。
中級術相当の回復術を施され、男の傷は修復される。
しかし、痛みの反動で意識は失ったままで、目は閉じられていた。
「起きろ! もう傷は治った」
施術者は男を強く揺する。それを少し続けると、男は意識を取り戻した。
「あと、何度すればいいんだ」
「……戦いが終わるまでだ! 行け!」
男はゆらゆらと立ち上がり、戦場に戻っていった。
ずいぶんと厳しいようにも見えるが、それは彼に限ったことではない。
この施術者もまた、次々と運び込まれてくる兵を治療し、自身の導力を大量に喰われていたのだ。
眠る時間は少量。強い者はともかく、導力の少ない治療者の多くが倒れていた。
そうして、動けなくなるまでは真っ当な休みは取れない。
狂気の戦争だが、こうしなければ守り抜くことはできなかった。
そんな様を見ていたシナヴァリアは、片手で小さく開けていたテントの幕を降ろし、戦場に向かっていく。