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「……話を戻しましょう」
ダーインは手で資料を机に置くように促し、シナヴァリアもまたそれに応じた。
「アルマ姫が戦場を離れたことで、今は小休止といったところですが――宰相、あなたはどうするつもりですか」
「ダーイン、民の協力は取り付けられたか?」
話が成立していないように見えが――いや、実際に成立していなかった。
しかし、大貴族は自ら退き、宰相に話を合わせた。
「教会の信用は地に堕ち、我々に協力するしかない、という状況に仕立てました」
「それで十分だ」
「それで、策は」
「順当に戦って、勝てる相手ではない」
「……抵抗はナシ、と」
シナヴァリアはかぶりを振った。
「そうではない。勝てないのであれば、国を守り切ることを考えるのだ」
「……詳しく教えてもらいましょうか」
「民には後方支援を任せる。特に肝となるのは、彼らに兵の回収を任せるということだ」
「兵の回収……? 民を前線に回すとでも言うつもりですか?」
「そうだ。疲弊した兵の回収は民に任せる。そして、壁内の治療施設に回し次第、すぐさま回復、戦場に突き返す」
「ッ! そんなことをすれば、兵の精神が壊れることは必至です」
「だからこそ、これが最終の策なのだ。その上、この作戦を用いても尚、一週間は持たない」
ダーインは肩を竦めた。
「ここで時間稼ぎをして、どうなるというんですか」
「天の国の増援は、当然望めないだろう。だからこそ、善大王様の帰還を祈る」
「ここまできて、未だに善大王様ですか」
「この状況をひっくり返すには、あのお方の力が必要だ。如何なる魔物でも一撃で葬り去る、あのお方の《皇の力》が」
彼は分かっていた。
この世界に一発逆転、などという言葉が存在しないことを。
だからこそ本来、この状況は詰み。負けが確定した状態であり、相手の兵を幾ら削れるかというものでしかない。
この負けが確定した局を覆し、盤をひっくり返すような無法を行えるのは、善大王しか居ないのだ。
「幸い、相手は魔物だけ。あのお方さえ戻られれば、ただの一瞬で決着がつく」
「らしくもないのは宰相も同じではないか。この今、まさに存亡の危機という状況で、奇跡に縋るなど――それも、奇跡に縋る為に、兵や民に苦痛を強いるなど正気ではない!」
「もとより、この国は一度滅んでいるではないか。姫が見せた、あの奇跡がなければ」
それを聞き、さすがのダーインも沈黙した。
あの時もまた、彼らではどうしようもない状況だった。
結局のところ、光の国は滅びるべくして滅びる状況にある。
その摂理、運命を覆すには、どうしても規格外の存在が必要となるのだ。
「……もしくは、エルフの技法を全員に周知するか、だ」
「分かった。できる限りは手を打とう」
ダーインがそれを許さないと分かった上で、シナヴァリアはふっかけ、そして彼の協力を確約させた。




