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――ライトロード城にて……。
「ダーイン、そちらはどうなった」
「無事、王は助けられ――」
「王は善大王様だ」
明らかに場を読まない割り込みだったが、内容自体はその通りであった。
しかし、ダーインは露骨に嫌悪感を示し、視線を逸らしてから「バルバという男は、この手で葬った」と報告を行った。
「らしくもないことをする」
「あの男が吐いた情報だ。目を通しておいて……ください」
いつまでも悪態をつくでもなく、彼は普段の態度に戻った。
シナヴァリアはそんな変化を気にするでもなく、情報に目を通し始めた。
「……なるほど」
「マックという男の件、覚えは?」
「この国で妙な実験を……それも、秘密裏に行っている男の情報は入っていた。だが、詳しい内容については知らなかった」
「施設内の情報は」
「奴の対処は暗部に任せた。だからこそ、確認するまでもなく処理させた」
彼に限ったことではなく、暗部では施設の襲撃を行った際、研究資料などは速やかに処分するように教育している。
だからこそ、アカリの能力なども知られていなかった。
「惜しいことをする。異世界へと跳躍する術など、夢があることではないか」
「それはダーインの趣味だろう」
彼が《武潜の宝具》――それも、銃器に興味があることはシナヴァリアも知っていた。
だからこそ、公の場で私事を語るなど忠告したのだ。
「ただ言ってみただけですよ。しかし、問題はこちらです」
「エルフの技法……か。クラークが調べようとしていた、とは善大王様から聞いていたが」
「この国にここまで多くのダニが潜んでいたとは、私も予想していませんでしたよ」
「バルバという男はこれを獲得していたのだろう。ダーイン、これについても聞き出したのか?」
大貴族はしばらく黙り「彼の研究資料は徴収しました。ですが、これは公表すべきではない」と言った。
「当たり前だ。処分しておけ」
「……いえ、残しておくべきかと。もちろん、一般に公表するでもなく、一部の人間が享受するのでもなく」
「知識だけを封じておくとでも?」
「はい。いずれ、これが必要になる場面が来るかも知れません」
「分からないな。ならば、貴族に広めるべきだ。そうすれば、戦力の不足も防げる」
「《魔導式》が、如何にして広まったかご存じですか?」
思い出しながら、シナヴァリアは口を開く。
「ラグーン王家が広めた、と記憶しているが」
「貴族のみが独占していた技術として、それまでは秩序が保たれていました。しかし、それが一度下々の人間に広まれば、それを止めることは叶わない」
「何が言いたい」
「強力な技術を利己的な目的で使えば、それは世に混乱をもたらす、ということですよ。広まった知識は、悪しき者も得ることができる。そうした力を得た者を倒すには、より強力な技術が必要になる……分かりますか?」
「影響が出るのは遙か先の未来のことだ」
「今は、遙か古の世にとっての、遙か先の未来なんですよ」
ダーインは大貴族であり、正統派の筆頭であると同時に、《選ばれし三柱》なのだ。
だからこそ、彼は飽くまでも、世の秩序を考えて行動している。
そして、知識を司る《選ばれし三柱》だからこそ、秩序の破壊をもたらすかもしれないとしても、エルフの技法を失伝させるべきではないと考えていたのだ。