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弾け飛んだはずの肉塊は赤い光の粒子に変わり、消滅した。それを埋め合わせるかのように、彼女の首から下の部品が追加で補充される。
「(あれ、体が……)」
驚いていたのはアカリだけではない、それを見ていたダーインすらも、あり得ない現象を観測し、言葉を失った。
「(不死の能力? そのようなものが存在するというのか……あり得ない)」
ダーインは本来、人間が一生を費やしても蓄積することのできない知識量を内包している。
その多くの情報が総合的に導き出した、世界の法則のひとつ。人の死は覆らないとい知識が、この現象に対する不可解さを増長させる。
混乱する二人に気を遣うはずもなく、魔物は踵を返し、再び突撃を仕掛けてきた。
「二度は通さない」
ダーインの前方に展開されていた《魔導式》が円形に整列され、黄色に発光する。
「断罪せよ《光輝の処刑》」
幾千、幾万という無数の光の刃が魔物の足に突き刺さり、宙に縛り付ける。
磔のような光景の後、魔物の体格に対して適正と感じられるほどの光の槍が数百本精製され、一拍置きに次々と放たれていく。
それを見た時、アカリはこの術がどういうものなのかを理解した。
「(身の自由を奪い、痛みを連続して与え続ける……処刑というよりかは拷問ね)」
術の発動中にアカリの《魔導式》も完成し、それらの攻撃に付随するように機動させる。
「《火ノ二百十五番・業火烈断》」
赤色の粒子が魔物へと近づいていき、命中する。その瞬間、爆薬に振動を与えたかの如く、光の粒子は膨張した。
対象範囲から自身とダーインを除いていたにも関わらず、爆風がアカリの髪を揺らし、肌に熱を届けた。
「(あれ、この威力……)」
前述したが、術は術者の裁量である程度は制御できる。しかし、それはある程度だ。
今発動された術の規模は、明らかに本来の効力を外れている。
そこでようやく、アカリは自分の体に起きている異常に気づいた。
死を体験した後、彼女は強烈な力の高まりを覚えていた。魔力の探知は生まれつき優れていただけに、己の中に存在する未知の力に疑問を抱く。
その力によって術が強化された。それは紛れもない事実。
「臨床体験による一時的強化、かもしれないな」ダーインは口を挟む。
「そんなことがあり得るんですか」
「心の臓が止まった者を蘇生したことがあるが、その際に力の上昇を確認している。効力はそこまで長くはないが、確かな変化だ」
魔物が迫ってくるのを確認すると、両人は口を閉じ、《魔導式》を展開しようとした。
刹那、魔物の瞳は光を失い、体は大気に溶けていった。
ダーインの術、そしてアカリの強化された上級術の直撃によって、勝負が決したのだろう。
「……勝った?」
「ああ」




