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この行動を見て、彼は余裕を持って《魔導式》の在処を探る。
ダーインが何の策もなく突進を仕掛けてきた、ということがあり得ないと分かりきっていたのだ。
しかし……。
「ない……だと? あの痛みの中、どこに隠し――」
ダーインはバルバの服を掴むと、そのまま地面に押しとした。
そのまま、さほど長くもない爪で皮膚を引っ掻き、その口で体に噛みついた。
あまりにもあり得ない行動に、バルバはエルフの技法を使うという発想が出なくなる。
「(どういうことだ。気でも違えたか!?)」
「こうも痛くては、《魔導式》など刻めるはずがなかろう!」
彼は正気のままに狂っていた。
強い怒り故に、ある程度の痛みならば耐えられるだろう。しかし、上級術の闇属性を喰らった以上、気合いで堪えることは不可能。
だからこそ、彼は物理攻撃に打って出た。
彼には武術の心得はない。故に、このような野蛮な攻撃方法が選択されたのだ。最も高い攻撃力を発揮させる為に。
「放せ!」
バルバも決して力の強い男ではなかったが、両手と両足を使った反撃により、大貴族は投げ飛ばされる。
背中が地面に付き、仰向けに倒れたダーインだったが、すぐに立ち上がった。
そして懐から杯を取り出し、口の中の血を、唾でも吐くように杯の中へと飛ばした。
すると、彼は一瞬のうちにバルバの獲得した情報を全て理解した。
「情報に偽りはナシ、か。そして、これがエルフの技法、というわけか」
《禁魂杯》は血の持ち主の持っている情報を獲得できる。
そこに例外はない。今まで誰も知り得なかったエルフの技法であっても、獲得することはできるのだ。
たとえエルフの血を使ったとしても、それは人間の理解できる形式ではない。
バルバが――クラークが調べ上げたのは、人間の技術体系下でも使えるように、ある意味翻訳を加えたようなものだ。
「何を、知ったような口を……!」
「知っているのだ。貴様が――貴様らが無数のエルフの屍を連ね、その手に収めた技法が」
「《闇ノ百十四番・黒刎頸》」
焦るように、上級術が発動される。
だが、それとは対照にダーインに焦りはなかった。それはまるで、先ほどの彼と同じような余裕であった。
「《光ノ百二十七番・七星条》」
一発の細い光線がダーインの直上に放たれ、黒い力場の刃を消滅させる。
「まさか、こんなことが……!」
順々に光線が放たれていき、合計七発に渡る攻撃が終了した頃には、バルバは絶命していた。
攻撃性の高い、七発の光線を放つ術。こう言うと強力にも感じるが、実情としてはさほど大きな攻撃力は発揮しないのだ。
ただし、磨き上げた場合はその限りではなく、二百番台にも相当する火力を叩き出す。
ダーインにとっての切り札であり、若き日より磨き続けた、奥の手でもあった。
正統王家の敵を討ったと安堵したダーインだったが、強烈な気配を察知し、空を見上げた。




