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――ライトロード城、壁内にて……。
「ダーイン……殿」
「バルバ氏、ニセモノを用意するというのは、適切ではないのでは?」
誰もが困惑する中、ダーインは自身の強力な光属性の導力を放出し、当主を光で包んだ。
すると、藍色の霧のようなものが霧散し、金色の鮮やかさは薄れる。
「信者をこのように利用するなど、前法王と変わらないように思えるが」
「……前法王……バール様のことですか?」
「無論」
「よくいいますね。あのお方を葬ったのはどなたですか?」
ダーインは黙っていた。
「元宰相、シナヴァリアだ」
民衆はざわついた。
「貴族は我ら教会が不都合だからと、法王を暗殺した。正規の手段ではなく、何者かがやったと隠して行った! それこそが悪性の根拠だ」
「それが、私に何の関係がある」
大貴族が一切擁護に入らなかったのは意外だったのか、バルバは言葉を失った。
「バルバ氏、あなたが行おうとしているのは、教会による国家の掌握だ。だからこそ、貴族という……正統王家という、この国の基幹を壊そうとしている」
「何を根拠に」
「本人から聞いたのだよ。あなたが秘密裏に捕らえていた、正統王家当主より」
再び、バルバは絶句した。
「捕らえたのはつい最近のこと。それまで、あなたが我が主を傀儡の如くに動かし、この国を自在に動かしていたのだろう? こちらにも大きな不都合がなかっただけに、対応が随分と遅れた」
「正統派の首魁が言っても何の証拠にもならないでしょう! ただ己が身、己が地位を守る為に――」
「生憎、こちらは別件で教会の悪行……いや、正体を突き止めたのだよ。皮肉にも、魔物の口からね」
「魔物の……?」
「オーダー、人間を家畜として扱うことを是とした知的魔物の集団。それが教会を利用していたことはこちらも聞き及んでいる」
「それは、前法王の……」
「今回の奇襲、彼らから聞いたのだよ。だからこそ、手を打つことはできた」
魔物が明かすはずがない、と考えるのは簡単だった。
しかし、断言はできなかった。現に、ローチは実験の完成の末、首都を無差別に攻撃したのだ。
あの時はアルマがいたからこそどうにかなったが、教会が本当に救われる保証はなかった。
「……それがどうしたというのだ!」
「なに?」
「あなたは私の所業を追及しようとしているようだが、それに何の意味がある?」
「……」
「魔物の接近は近い。滅ぼされてしまえば、真実は闇に溶ける。終わりだよ、お前達は」
「終わり……か、そうかもしれない。我々はアルマ姫を欠き、善大王様も不在だ。このまま衝突することになれば、滅びは必至だ」
「善大王……か。好都合なはずだが、あの男がいなかったのが誤算だった」
奇妙な言い分に違和感を抱き、ダーインは黙る。
「あの男を消すことこそ、我々の真の目的だった」
「我々? 教会のことか」
「……ハハ、この時まで隠し通せたというわけか!
教会? そんなものは仮初めの所在にすぎない。クラークの弟と聞けば、分かるか」