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首都の内部では、突如として現れた魔物がアルマなのではないか、という疑惑が広まっていた。
「外に聖女様が出たというのは本当なのか?」
「兵士が言ってたぞ。魔物の味方をして、何人も殺してるって」
「聖女様がそんなことをするはずがないだろう」
「だが、ライトロードの危機に聖女様が出てきてないということは――近頃は大聖堂にも……」
首都に居ればこそ、その可能性は強く感じるものだった。
アルマが全く姿を現さない、というのはそれほど異常事態なのだ。
だからこそ、かのローチを打ち倒した時の奇跡さえも忘れ、目の前の疑惑に取り憑かれている。
それがもし、ただの疑惑であればいいのだが、最悪なことに事実であった。
陰謀もなく、アルマが味方の兵を殺しているという事実は変わらないのだ。
「どうにも、城外で暴れているのは聖女様のようですね」
騒ぎの渦中に現れたのは、法王代理のバルバだった。
「我ら教会の戦力を送りましたが、彼らからの報告が正しければ、聖女様は……いえ、アルマ姫は魔物の仲間になったようです」
「まさか!」
「そんなはずがない!」
「……事実です。彼女は魔物を守り、仲間を殺さないでと言った。これはもう、疑いようのないことです」
法王の代理は評判が良かった。
というよりも、理想的な動きをし続けてきたのだ。
先代法王のバールの汚名を晴らすように、教会の力を民のために使ってきた。
こうして、教会にとって虎の子である戦士達を戦場に投入したのも、それまででは考えられないことである。
その彼がこうして報告しているからには、疑いようのない事実と言うことが分かる。
「現在のライトロードの国主は正統王家です。ですが、彼の者は先代法王の方針を大きく崩さず、そのまま維持させ続け、こうして光の国を危機に陥れました」
「そうなのか……?」
僅かに聞こえた声を聞き逃すことなく、バルバは言葉を拾った。
「彼は自身の娘であるアルマ姫の監督ができていなかった。巫女が魔物に寝返ったということも隠し、自身の失策を知られないように手を打った。貴族階級の人間は隠すばかりで、我々国民に情報を明かそうとしないのですよ」
絶望的な状況に、誰もが教会側の意見に同調し始めた。
アルマが裏切るはずがない、という信用さえ揺らぎ、勢力は大きく傾いた。
バルバは何かに気付いたように、通信術式を開いた。
「……捕らえましたか」
『はい』
答えを聞くと通信を切り、城の方角を見た。
すると、人混みを掻き分けながら、正統王家の当主が教会の戦士に連れられてくる様が見えてくる。
「彼こそが、此度の混乱の根源です」
金色の髪に黄色の瞳、ライトロード人らしさを強く残した人物は、紛れもなく正統王家の当主だった。
誰もがそれを認めざるを得なくなる中、当主は黙ったまま項垂れている。
「己の罪を認めるか?」
彼は黙ったまま頷き、表を上げようとはしなかった。
「……この始末ですよ。貴族は皆、民を利用することだけを考え、動き続けてきた。こうなってはやはり、我々教会が――」
「その必要は、ありません」
その声を聞いた瞬間、バルバは顔を強ばらせた。