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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1224/1603

17y

 ――光の国、首都ライトロードにて……。


 いつか見た魔物とは違う、人型の魔物が現れたことで、首都は混乱していた。

 ただ、その混乱はある意味理性を持ったものであり、逃げ出す民などは見られない。


 彼らはローチとの戦いを通じて、魔物を恐れる感情を僅かに薄れさせていたのだ。

 当然のことだ。アルマの加護の下――《星の秘術》による強化を受けていたとはいえ、彼らは魔物と戦ったのだから


 しかし、本当に戦い出す者はおらず、城壁の外で戦っていたのは残存していた兵達であった。


「前線からの情報の通りだ! 我々でも押せる!」


 光属性の術により強化された兵士達は、凄まじい速度で戦場を駆け、魔物を翻弄していく。

 一人ではシナヴァリアのそれに到達し得ない身体能力だが、ここには無数の兵力があるのだ。


 一対一ではなく、複数で囲んで各個撃破していく。

 それだけであれば簡単な話だが、彼らはシナヴァリアが寄こした情報により、相手の特性なども理解していた。


 情報を知られる。ただ、それだけで戦況は大きく変わる。対処する術さえあれば、困難は可能に近づく。


 勝負は五分五分。いや、死者が出ていない分、人間側が優位に立っていた。

 とはいえ、維持的な有利だ。魔物の撃破は速やかに行われるということもなく、長らく時間をかけてようやく一体という具合である。


 長期戦になれば、ライトロード軍が危ぶまれるが、彼らは前線からの増援を信じて戦っていた。


「……これ以上は、やらせない」


 戦場の雑音にかき消されながらも、少女はそう言った。

 裸体を晒した少女はゆっくりとした歩調を整え、次第に速度を増していく。


「もう、殺させない……!」


 瞳孔が縮み、彼女の目の前に蜘蛛の巣を思わせる黒い力場が形成された。

 彼女は走る速さを緩めることなく、その力場へと突っ込み、強い抵抗感に抗うように前へと進む。


 黒い糸はゆっくりと実体を帯びていき、拘束具のように彼女の体を強く縛り上げていった。

 恥部は隠されるが、締め付けられた箇所は青紫に鬱血し、痛々しさが増す。


 戦場に突如として現れた闖入者に、誰もが困惑した。


「エルフ……? いや、魔物か!?」

「だが、なんの魔物なんだ!?」


 大抵の変異型は、虫のような部位を有していた。

 しかし、彼女にそれはない。身に纏う拘束具は(ひど)(みにく)いものだが、何の生物のものかは判断できなかった。


 黒い髪の、気味が悪い死体のような肌をした少女。それをアルマに重ねる者は、誰もいなかった。


「仲間を、殺させたりしない」


 その声を聞いた瞬間、兵士は顔色を変えた。


「まさか、姫――」


 言いかけた時、男の体は強烈な蹴りを浴びせられ、肉が抉り取られた。

 衝撃で吹っ飛ばされたのは、取り除かれた肉の部分だけ。命のなくなった体の大部分はその場に取り残され、地面に転がった。


「な、なんだあれは……っ! 姫様は! 姫様はいないのか!?」


 魔物退治の専門家である彼らでさえ、逆転をもたらすアルマを求めていた。

 あの奇跡を目の当たりにすれば、当然の反応だが、今目の前に居る相手が姫だというのは本当に皮肉なことだった。


「もっと……もっと!」


 彼女は性的な高揚感を覚えると同時に、仲間(・・)が殺される怒りが吹き出し、戦意を異様なほどに高めていく。

 黒い瘴気を纏いながら、動物的な機動で兵士に迫り、剣を噛みちぎる。


「なっ……!」


 鋭い拳を打ち込み、転倒させるや否や激しいストンピングを行い、死した肉体から人の形を奪い去った。


 彼女は戦い方を盗み、それを肉体に還元している。だからこそ、シナヴァリアのそれさえも、自身の技術となっていた。


「まさか、あれは巫女様ではないのか?」

「……確かに、似てはいるが」


 彼女が戦場で何人も殺していくうちに、気付いた者達がぽつぽつと現れ始める。

 髪や肌は変わっていても、顔の造形は変わらないのだ。少女とは思えない整った顔つきを見て、それを気付かない者はそうそういない。

 だが、多くはそれを認めようとはしていなかった。


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