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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1221/1603

14C

「俺がここでお前らと戦いたくないのは、俺等の世界の在り方の問題なんだよ」

「そちらの世界か」

「お前らは魔界と言っているが、俺達は《鏡面世界》と呼んでいる。そっち風にするなら、ディフィニットアウスと言ったところか」

「鏡面世界……?」

「ついでに、お前らの世界はウチじゃ《境界世界》と言われてるな」


 全く関係ない話だからか、タグラムは無関心そうだが、ダーインは知られざる魔界の情報に強い関心を抱いていた。


「鏡面世界は、さっきも言った通り、そっちの世界とは真逆なんだよ。お前らが荒廃すれば繁栄し、逆に繁栄すればこっちが荒廃するって具合にな」

「だが、我々はそちらの繁栄を拒んだわけだ」

「その通り。今はそれにどうこう言うつもりはないが、鏡面世界は境界世界と違って、他人の気持ちを推し量るようなことはしないわけだ。

 弱い奴を見つければすぐに叩き、そいつの強さを奪い取る。この戦争が始まる以前は、魔物同士の食い合いが多く起きていた――もちろん、今もうちの派閥に属さない奴らは続けているが」

「確かに、それならこちらの世界とは違うようだ」

「だから、俺が弱って帰れば、多少のリスクを犯すことになる。身内にやられることはないにしろ、道中で有象無象に襲われたら(たま)ったものじゃない」

「派閥の仲間に守らせればいいのではないか?」

「言っただろ、向こうの世界はそういう場所じゃねえんだよ。理性や知性故に、手を出しはしないが、手を貸してはくれないんだよ。喰われたらそれまで、そんな無能の世話を焼いてやるほど優しくはねぇ」


 とても合理的な仕組みではあった。

 というより、原始的であった。


 当たり前だが、合理とは原始の裏返しである。下等な生物ほど無駄なことはせず、純粋に生存を目指す。

 人ほどの高等な動物になれば、生存から脇道に逸れるようなことをするのだ。


 それ故に、シナヴァリアのような余計なこと(・・・・・)を余計なこととして軽んじる男には、とても生き辛い世界となっている。


「お前らには関係ないことだろうが、俺達は今まで通りに生きている魔物を《リベラル》と呼んでいる。ついでに、うちの派閥は《オーダー》って言うんだが」

「だが、敵の敵は味方になり得ないだろう?」シナヴァリアは言う。

「当たり前だ。リベラルは七面倒くさいルールに縛られることのない、旧来の魔物だ。人間など餌としか思っていない――俺達オーダーにしても、利をもたらすのであれば生かすが、そうでないのであれば奴らとは変わらない」


 変わらないと言われながらも、シナヴァリアは常に相手の顔を見ていた。

 表情豊かで、対話をしている目の前の相手を見て、彼は本当に同じなのだろうかと考えていた。


「(確かに価値観は大きく異なる。しかし、オーダーとされる魔物の集団は――我々以上に人間の理想に近いのではないか?)」


 彼は大きく思い悩んでいだ。

 それも当たり前のことだった。教会という偶像に縋る光の国の――それもこの戦時中の醜態を見てきた彼からすれば、強く感じることだった。


 人は得てして、対話する言語を有しながらも、対話しようとはしない。

 聞こえる声を聞こえないものとし、自分の主張だけをし続ける。理を以てしても、相手に届かなければ対話の意味はないのだ。

 逆に、魔物は大きく価値観を違えながらも、真の意味での対話が成立している。


 彼らはただ現実を見つめ続けているからこそ、耳を塞ぎ、目を閉じることの愚かさを知っているのだろう。

 知ることは大きな苦痛を伴うが、大きなアドバンテージを握ることになる。

 だからこそ、彼らは不都合であっても、相手と語り合い、情報を獲得しようとする。


 人々が真に理解し合う為に必要な能力であると同時に、人間である限りは手に入れることのできない能力だ。


「我々はそちらの力量を瞳で判断している」

「おおよそ間違いない。そちらの呼び方は気にくわないが」

「……別のものがあると?」

「ふっ、興味があるのか? ならば最初はこちらの話題から広げておくべきだったな」


 冗談のような言い方だったが、彼は答える意志がないというわけでもなく、語り出した。


「下からワーカー、ナイト、ロード、バロン、カウント……これくらいで十分か?」

「つまり、お前はバロンというわけか」

「理解が早くていい」

「尖兵として使われていることから予想したが、さらに上位の個体がいるということか」

「……まぁ、カウントクラスの奴が出てくるとは思わないがな――さて、お喋りはこれくらいで十分か?」



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