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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
122/1603

19

 目の前にいたのは、大規模住居程度の巨大な蜘蛛型の魔物だった。

 縞模様のごく普通な外皮とは裏腹に、複数の目は充血した人間の瞳に類似していた。

 猟奇的な造形だなどとアカリは自嘲し、ダーインの隣に立つ。


「戦術は」

「君は火力で押してくれ。私は時間稼ぎを行う」


 この戦い、言うまでもなく二人の側が不利である。

 いくら《選ばれし三柱(トリニティア)》が二人いるとはいえ、両者とも高火力を持った使い手ではない。

 高速で近づいてくる魔物を前に、ダーインは《魔導式》を起動する。


「《光ノ六番・光縄(バインド)》」


 一本の大きな縄が伸びたかと思うと、それは瞬間的に分散していき、一気に百本にまでばらけた。

 一本一本は凄まじく細い為、耐久度に不安などが見られたが、すぐにちぎられる様子はない。

 この術をみた途端、アカリは絶句した。

 術というのは基本的にどのような事象が起きるかは確定している。

 炎弾を大きく、早く、爆発力を高められることはアカリの知るところだが、ダーインはその術の形式そのものを歪めている。

 さらに、よく見れば分散した数は四百にまで至る。発動の途中でそれら四本ずつが一本になり、視覚的には百本に見えていた。

 言ってしまえば導力によって作られた強化糸だ。

 術者としての技量が明らかに違う。経験や才能という次元ではなく、全てにおいて自分よりも上手の存在だと、アカリは瞬時に見極めてしまった。


「(なら、負けてられないでしょ)」


 自分はそのような小細工はできない、そう自負しながらも、アカリは勝ち気に、単純ながらも出せる最高順列の術を創りあげていく。


「《火ノ二百一番・劫火灼葬(バーストエンド)》」


 小さな館に匹敵するほどの火球が生成され、それが魔物に向かって放たれる。

 《火ノ十番・火球(ファイアボール)》の超強化系といえる術なだけに、突出した面はなく、ただ火力が高い。純粋で使いやすい術だ。

 攻撃終了後、魔物の四肢を縛り上げていた縄が引きちぎられ、活動が再開する。

 またもやダーインが動きを封じるのかと思いきや、彼は別の《魔導式》を展開していた。

 足止めは期待できない、そう判断してアカリは移動しながらも順列を落とした術を放つ。


「《火ノ五十五番・爆火(ファイアボム)》」


 手のひら大の火球が投げ込まれ、衝突と同時に中規模な爆発を発生させる。

 巨岩をも砕く術のはずだが、魔物には一切効果がなく、進撃は止まらない。


「火力に集中してくれ」

「でも、これじゃあ」


 魔物がある一点に到達した途端、黄色に輝く巨大な炎が現れ、動きを封じた。


「(火属性? でも、あんなの聞いたことがない……それに、ダーインは光属性使いのはずじゃ)」


 疑問を浮かべながらも《魔導式》を展開し、恙なく術を発動していく。

 そうこうして三、四巡ほど同じような方法で戦った。

 謎の炎の正体はダーインから明かされず、それでもアカリは術を放ち続ける。

 ダーインの《魔導式》は未だに展開中。そもそも、《魔導式》を用いない術自体、アカリからすれば不可解でしかなかった。

 《魔技》というには威力が高すぎる。《超常能力》ならば術は使えないはず。そんな考えが彼女の頭を支配していた。


「……げろ!」

「えっ」

「逃げろ!」


 そこでようやく、自分が呼ばれていることに気付き、アカリは逃亡姿勢に入った。だが……。

 巨躯による疾走は予期せぬ速度にまで到達し、通常ではあり得ない莫大な質量の衝突によって、アカリの体は弾け飛んだ。

 嘲るように、藍色の瞳がアカリに向き、そのまま魔物は通過していく。

 腕や足などが引きちぎれ、肉片がバラバラと地面に散らばっていく。

 幸い残った頭は、そうして四散していった己が肉体を瞳に収めた後、ゆっくりと機能を停止していった。

 刹那、急激に意識が覚醒し、アカリは目を覚ます。

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