11C
「さて、そろそろお話の時間だ」
「……なん、だと」
「人間はせっかちで、差別的で良くない。俺はもとより、お前らを殺しに来たわけじゃない」
戯け、と言いかけるが、彼は言葉を呑み込んだ。
安易に煽るのは危険ということもあるが、確かに紅色の瞳を有している個体ならば、単騎でこの陣営を破壊するのは容易だろう。
にもかかわらず、相手は人型の姿になり、こうして幕営内で待っていたのだ。
しばらく考え、彼は頷いた。
「話し合いが所望とあれば、こちらも望むところだ」
「お前は比較的、我々に近い性格らしい。これはきちんと話し合いができそうだ。素晴らしい」
否定するでも肯定するでもなく、シナヴァリアは「その代わり、この陣営の代表者二人の同席を認めて欲しい」と要求に入った。
「必要というのであれば、了解しよう。一人で決めることでもないしな」
それを聞き、シナヴァリアは表立って通信を行う。
「ダーイン、タグラム殿を連れて来てくれ」
『宰相、そちらで何が――』
「今より、話し合いが行われる」
『誰と』
「……魔物と、だ」
ダーインは言葉を失うが、すぐに『分かりました』とだけ返答して通信を切った。
ほどなく、二人の代表者だけが呼び出される。もちろん、魔物が来ているという情報は、兵には伏せていた。
タグラムひどく驚いていたが、ダーインは黙ったまま、席に座る。
「紅眼の魔物、ですか」とダーイン。
「なに!? ……確かに、これは」
「そう、俺はお前らが殺したローチと同等の強さを持つ魔物だ」
平然と人間の言葉を紡ぐ魔物に驚きながらも、タグラムは先んじて切り込んだ。
「話し合いと聞いたが、何を話し合うつもりだ。我々が互いに語らえることなどありはしないはずだが」
「それはそうだ。俺達は人類を苦しめることが目的だからな」
それを聞き、全員が厳しい顔をした。
「やはり話し合いなど――」
「何故、人類を苦しめると言う? 滅ぼす、ではないのか?」シナヴァリアは問う。
「……それについては後で話すとしよう。俺としては――俺の派閥としては、お前ら人間と共栄関係を築きたいと思っている」
これは一言前とは別の方向で、三人を驚かせる。
「魔物が共栄関係だと? 闇の国を裏切るつもりか?」
「あいつらに力を貸していたのは、魔物にとって都合が良かったからだ。連中はほどほどに世界を混乱させる力を持っていた――だからこそ、手を貸しただけ。今はもうカシは残ってない」
「力がなくなれば用済み、ですか」
「お前達は例外だ。こちらの計画では、人間側が呑んでくれさえすれば、互いに殺し合う必要はなくなる」
まるで理想的な提案だが、シナヴァリアは別の点を注視し続けていた。
「俺の派閥、と言ったな。まるで、魔物も一枚岩ではないように聞こえるが」
「ご名答! 魔物の大半は未だに、闇の国についてこっちの世界を滅茶苦茶にしようとしている」
「お前達は違う、と」
「もちろん。俺達は白痴のような魔物と違い、明確な知性を獲得している。構成員も魔界では上位の個体だ……そして、今後間違いなく、俺達の思想を理解する奴は増えてくる」