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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1217/1603

10C

 勇んで洞窟へと向かった一行だったが、そこにはなにもいなかった。

 これには落胆を示さずにはいられなかったが、肝心のシナヴァリアはしばし沈黙し、そして安堵した。


「成果はナシですか」

「不本意な結果だが、戻るとしよう」

「……らしくありませんね」


 誰に言われるでもなく、彼は分かっていた。

 ただ、恐怖は拭い去れず、勝てるという保証もなかった。


「先延ばしなど愚行でしかないが……」

「あなたを責めるつもりはありませんよ。私とて、姫とやり合うのは避けたいところです」

「だが、いずれ必ず衝突することにはなる」

「分かっているならば、そのような態度はとらないことですよ」


 彼は見通していた。冷血な宰相が一人の少女を恐れ、戦わずに済んだことに安堵していたと。


「好きに言え」

「後続の調査は」

「連中もこちらの戦力は把握したはずだ。安易に襲ってくることはないと考えていい。移動しながら兵に、対策を教えればなお安全だ」

「お考えがあるのであれば、こちらはそれに従うまでですよ」


 シナヴァリアは内心で、善大王の帰還を願っていた。

 彼さえいれば、現状積み上がった幾多の問題が解消され、事態が好転すると思っていたのだ。

 それは見当違いなことでもないのだが、やはり彼らしくもない考えだった。

 アルマは自身の非力さを呪っていたが、それは彼女に限ったことではないのだ。

 強いシナヴァリアでさえ、自分の手に余る事態の多さに辟易としていた。結局、大事を変えることができる人間に縋るしかない、というのは彼にとっては苦痛でしかなかった。


 ただし、彼は真っ当な人間だ。ただの建前などではなく、言った通りの戦術教育を行った。


 そうこうして戦場に戻る頃には、ほぼ全員がある一定の理解をし、戦闘に組み込める程度になった。

 部隊の再配置をダーインに委任し、シナヴァリアはただ一人、幕営に戻った。

 怠惰なようにも見えるが、彼は純粋に疲弊していた。ここで働いたところで、本来の力は発揮できないとわかるからこそ、彼は休むことを選んだ。


 だが、戦争はそれを許そうとはしなかった。


「ずいぶんと待ったぜ」


 幕営内の、彼が普段座っている場所に一人の男が腰掛けていた。

 人間としか思えない姿だが、よく見れば違うことがすぐにわかる。そのはずだ、その男には一対の蝙蝠(こうもり)羽根が生えているのだ。

 シナヴァリアは無言で構え、ゆっくりと通信術式を用意していく。


「客人にその態度ってのは気にいらねぇなぁ」

「何者だ」


 蝙蝠男は細目でシナヴァリアを見つめた後、身を反らしながら嘲るように笑う。


「さあ、誰だと思う」

「魔物か」

「ご名答! さすがはローチを屠った将軍様だ」


 シナヴァリアは眉を顰め、男の様子を窺った。


「どうにも何か勘違いをしているようだな。あの魔物を撃破したのは、お前が仲間に引き入れた人間だ」

「人間……? さあ知らない話だな」


 彼はカマをかけていた。もし、アルマがこの蝙蝠男の手引きで魔物となっているならば、その打開策を聞き出せるかもしれないと判断したのだ。

 しかし、この男からは嘘の気配はしなかった。アルマとの関連性がないと分かったのは幸でもあり、不幸でもあった。


「お前が魔物である以上、ここで消す」

「物騒なお方だ。ははぁ、例の半端者達に痛い目でも合わされたか?」


 シナヴァリアは急激に接近し、拳打を打ち込んだ。

 突き刺すような正拳突きだったが、これは身を大きく反らした蝙蝠男に回避され、空振りに終わる。


「この程度か?」

「……」


 凄まじいコンビネーションで幾度も攻撃を行うが、その全てが回避され、相手の力量を否応がなしに知らしめられることとなった。


「人間じゃ届かねぇよ」

「どうかな」


 彼はあの攻防の最中に通信術式を起動し、ダーインへと繋いでいた。

 言葉はなくとも、その状況の異常性に気づかせることは可能である。そして、ダーインであればそれに間違いなく気づく。


「なるほど、通信術式か。一本取られた」

「退くか」

「まさか、おたくは俺のことを低く見積もってるんじゃないか? まぁ、脆弱な人間の姿だそう思うのは仕方ない」


 そうい言うと、蝙蝠男は細めて炒めを見開き、赤い双眸で彼を睨みつけた。


「ローチの末路を知っている時点で、こういう判断はすべきだぜ」


 紅色の瞳を有する魔物。それは、アルマの奇跡によって、どうにか倒せた相手であることを示していた。

 つまり、増援が来たところでどうにもならない、ということだった。


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