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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1215/1603

8C

 暗黒の中、二人は打ち合い続けた。

 シナヴァリアの方が消耗が激しいことは明白で、片方の手は完全に潰れていた。

 しかし、ただ負け越しているわけではない。


「……まさか」

「やっぱり強いね……あたしじゃ、勝てないよ――前のあたしなら」


 そう言うと、彼女の眼前に黒い繭のような《魔導式》が展開された。

 闇属性とも違う色の、漆黒の《魔導式》が発光し、対峙していた相手の姿に光を当てる。


 肌や髪の色は変わり果てているが、それは紛れもなくアルマだった。

 素肌を晒したアルマはゆっくりと繭の中に向かって歩き進め――その中に入る。


 相手の正体が分かっただけに、シナヴァリアは驚き、攻撃のタイミングを失ってしまった。

 そうして呆然としている間に、繭を通過し終えたアルマが出てくる。


 黒い《魔導式》から抜けようとするが、極薄の鉄板のようなものが包帯の如くに彼女の体へと絡みつき、華奢な体を締め上げていく。

 それは拘束具の如く、腕や足、股や胸に巻き付いていき、その周囲は青紫に鬱血していた。


 拘束具が彼女の体を縛りきった後、ようやく《魔導式》から抜け出す。彼女は息絶え絶えになり、痛みに歪んだ顔を見せた。

 鬱血からも分かるとおり、これがひどい強さで圧迫し、かなりの痛みを与えていることは分かった。


 まるで、その痛みに呼応するように、拘束具の表面にはイボや皮膚炎のような湿疹が浮かび上がる。

 痛々しさと、醜さの混じった姿となったアルマは、シナヴァリアをじっと見た。


「……」

「あたしは、前みたいに弱いあたしじゃない!」


 彼女は当たり散らすように、地を強く蹴りつけながらシナヴァリアへと迫る。

 彼女が攻撃してきた時点で、彼は素早く迷いを捨て去った。


 相手の動きを読み、刹那のタイミングで紙一重に躱し、蹴りを放つ。

 しかし、アルマはそれよりも上を行き、黒い瘴気を全身から吹き出しながら、彼の真後ろに回った。

 攻撃が空振りに終わるが、動作中の為に回避はできない。


「ッ……」


 彼は蹴りの範囲を拡張し、回し蹴りの要領で背後まで足を振った。

 かなり無茶な攻撃だった為か、アルマは後方に引き、あっさり回避される。


 その上、彼女は攻撃の軌道が経過し終えたのを確認すると、跳躍しながら彼の首を掴んだ。

 ネックハンギングのまま、跳躍は続き、彼の脳天は天井に叩きつけられる。

 そこから連続し、地面に向かって投げ、叩きつけられた。


 彼は明確に、彼女の手から黒い瘴気が吹き出していることを目視し、恐怖を覚えた。

 首に途轍もないダメージが叩きつけられ、息切れを起こすが、それでも意識はしっかり保っている。


「(……このままなら、殺される)」


 アルマの圧倒的な近接能力、そして未知なる力により、彼は敗北を確信した。

 シナヴァリアは確かに強力な使い手ではあるが、決して《選ばれし三柱(トリニティア)》ではない。


 だからこそ、そこにある絶対的な力量差をひっくり返すことはできないのだ。

 ただ、そこで無理に挑まず、負けを認めることができた。

 そこは善大王と同じであり、彼であれば、同様の策を思いついたことだろう。


 彼は這いつくばり、露骨に体力の消耗を見せた。


「これで終わり? 弱いね」


 アルマが近づいてくることを、風の流れで読んだ。

 距離が迫る度に、鼓動が加速するが、心だけは静かに保っている。


 瞬間、彼は掴んでいた石礫をアルマに向かって投げつけ、走り出した。

 アルマの目には礫と、粉々になった石が当たり、行動が止まる。


 彼はそれを確認することもなく、全力で疾走し、外を目指した。

 あの一撃、天井に叩きつけられた時に割れた洞窟の壁を、彼は咄嗟に武器とした。

 目くらましを行う為には、極限まで距離を詰める必要があった。


 しかし、これは失敗と同時に死が確定する、という危険な賭けだった。

 普通であれば、焦りによって射程外の時点で投げつけ、空振りに終わるだろう。


 だが、彼は命が掛かっている場面でもなお、冷静にそれを遂行した。


 アルマの追撃を逃れ、シナヴァリアは洞窟の外に出たが、そこでも足を止めることはなかった。

 生き残る為に、彼は必死に走り続けた。


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