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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1212/1603

5C

 ――光の国、東部戦線にて……。


「……」


 シナヴァリアは何かが近づいていることに気付き、自身の真後ろに向かって回し蹴りを放った。

 見ずに放った一撃だったが、その蹴りは魔物の胴体に炸裂する。


「……これが事件の真相、か」


 彼はそう言うと、早歩き気味に近づき、追撃を行おうとした。

 しかし、その魔物は大きく飛び上がり、後方へと逃れる。


 そこで魔物の姿が鮮明に確認できるようになった。

 足はバッタのそれを思わせ、腕はカマキリの鎌のようなものに変異している。

 しかし、胴や顔は青年のそれであり、一瞬で魔物と判断するのは難しい相手だった。


「(二人は奇襲で仕留め、残り一人はあの姿で惑わし、殺したか……確かに、そこまで削れれば小隊規模でも殲滅できるな)」


 彼は冷静に状況を確認していった。

 魔物にしても、羽虫にしても、彼らは隠れて行動するということはそこまで多くはない。

 その上、大型の魔物であればそもそも隠れることができず、羽虫であればここまでの戦闘力を有することができないのだ。


 まさに、目の前の魔物はそのハイブリッド。鈍色眼の魔物に届かないものの、羽虫を遙かに上回る戦闘力の個体だ。

 シナヴァリアでなければ、単騎での遭遇はすなわち死だろう。


「……ネェエエエエエエエエエエエエエエエエエ」


 叫びを上げながら、高く飛び上がり、鎌を構えた。


「浅い」


 彼は迎撃態勢を取り、迎え撃とうとする。

 しかし、片方の鎌が伸び、シナヴァリアの右手を掴んだ。

 そのまま、彼の体は空から迫り来る魔物に引き寄せられ、接触のタイミングは大きくずれる。


 もう一本の鎌は鋭い刃のように煌めき、人の体など容易に両断できるだろうと感じさせた。


「読み違えたな」


 だが、シナヴァリアはそもそもが規格外だった。

 彼は自分の腕を掴んでいた鎌を引きちぎり、右手を自由にする。

 しかし、真の目的は拳打などではなく、体を動かせるようにすることだった。


 彼は魔物の腕を掴んだまま、まるでロープの代用品とするかのように大きく身を振り、魔物の背後に飛んだ。

 跳躍能力だけの魔物は対応できず、真後ろから放たれる強烈な踵落としを避けることもなく、そのまま地面に叩きつけられる。


「タ……ケ……」


 地面に叩き落とされた魔物は、命乞いでもするかのように、何かを呻いた。

 しかし、シナヴァリアは普段と変わらない仏頂面で、じっと見つめたままである。


 彼はそこで、改めて魔物の顔を見た。当然、知っている顔ではないのは確かなのだが、問題は別のところにある。


 この魔物はほんの少し前までは赤子だったのだ。にもかかわらず、この個体は明らかに青年のそれにまで成長している。


「(まだ生き残るがいるとすれば、早めに淘汰しなければならない、か)」


 シナヴァリアは今後の計画を粛々と立て、眼前の敵を睨んだ。

 これほどの速度で成長する魔物を放置すれば、後々大きな障害となると彼は読んだのだ。


 そして、この一体だけではないとも見ていた。


「仲間はいるのか?」

「……ギギ」

「なるほど」


 彼はすぐに会話が通じないと判断し、風の導力を纏った足でストンピングを行う。

 その怒濤のような連続攻撃により、魔物は息絶え、人の肉片を残したまま黒い粒子となって消えた。


「……なるほど、こうなるわけか。これはやっかいかもしれない」


 彼はそうとだけ呟くと、人のなり損ないを供養するでもなく、そのまま立ち去った。

 今の彼にとって、感傷的になる時間さえ惜しいのだ。なるべく早く事態に当たらなければ、より大きな問題になると分かっていたのだろう。


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