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――光の国にて……。
「どこお……? どこなのお」
アルマはふらふらと村の中を歩いていた。
まだ昼ではあるのだが、時期も時期な上、そこまで栄えた村でもないことも相成って人気はない。
彼女は耐え難い殺人欲求――というより、それで得られる快楽が目当てか――に駆られ、人を探していた。
初めて、復讐とは関係のない人物を殺して以来、彼女は定期的にこうした発作に襲われていた。
既に、殺した人数は両手でさえ数え切れない数に到達し、殺しに対する忌避感などは微塵もなくなっている。
早く誰かを見つけなければ、と思っていた時、彼女は一人の少年と目が合った。
その少年は素裸のアルマを見て、硬直していた。
ぼんやりと光る双眸でも、死人のような肌でもなく、見たことのない異性の肌が気になっていたのだろう。
忘れてはならないのだが、彼女は変異こそしているが、その美しい容貌などは一切変わっていない。
貴族階級の高貴な顔つきを、ただの民間人が見てしまえば、心を奪われるのも当然のことだった。
じっと見つめ合った後、アルマは彼に近づいていく。
少年は露骨に視線を泳がせるが、彼女は気にしていないように、同じ速さで進んでいった。
そして、彼の眼前にまで到着すると、自分より少し背の低い少年の顎を手で撫でた。
彼は興奮により、ひんやりとした感触を心地よいものと思い、紅潮する。
瞬間、彼の首は吹っ飛んだ。
子供の首が転がり、血だまりが村の一角に作られる。
「きもちいいよお……でも、なんか……」
既に屍となった子供を見下ろし、彼女は口許を歪めた。
「もっと、もっときもちいのが……ほしいのぉ」
まるでおもちゃで遊ぶように、彼女は少年の手足をもぎ取り、体を引き裂いていく。
そうしてある程度体をばらした時点で、彼女は恍惚とした表情を浮かべ、痙攣しながらくたっと倒れ込んだ。
その地面が血に濡れていることなど考えずず、心地よい気怠さの海に沈んだ。
「ひもちぃ……」
まるで中毒に陥ったかのように、彼女はとろけた顔で譫言を呟いていた。
逃げなければならない、見つかってはならない、などということは頭になかった。
今はただ、この快楽を味わうことにしか意識が向いていない。
しかし、当然のように人が出てきた。
叫び声を上げる間もなく殺された為に、気付いて出てきたわけではない。この少年と同じく、偶然のように家の外に出てしまったのだ。
「ひっ……きゃあああああああああああああ」
金切り声が村に響き、一斉に人があふれ出してきた。
何ができるというわけでもないにもかかわらず、村人はその惨状を目にし、憤ったり、嘆いたり、絶望したりした。
「子供……?」
アルマの姿を認識した後すぐに、その近くに転がる首を見つけた。
皮肉なことに、首を撥ね飛ばされたことで、誰かを識別できるような顔が綺麗に残っていた。
「坊や……坊やが!」
母親と思わしき女性は近くに置いてあった鍬を持ち、アルマへと迫っていく。
誰もそれを止めようとせず、それぞれが武器を持ち寄って、彼女を殺そうとする。
その光景は、いつか彼女が《星の秘術》を使った時に似ていた。
戦う力のない者達が、戦うべき状況によって立ち上がり、悪を討ち滅ぼすという。
快感に堕ちていたアルマの体に、鍬の一撃が炸裂する。
華奢な体は容易に鉄を受け入れ、中身をぐしゃぐしゃにされながら、血を吹き出していった。
そこでようやく、アルマの意識が冴えた。鋭い痛みが、彼女の酩酊を解いたのだ。
「いたい……いたいよ」
攻撃を浴びせられながら、ゆっくりと立ち上がるアルマを見て、村人は戦慄した。
母親と思わしき者は鍬から手を離し、後退りをする。
「痛いッ!」
甲高い声が耳に届いた瞬間、女性の胴体は斜めに引き裂かれ、恐怖に歪んだ顔が上半分と共に転がった。
あまりにあっけない死に、村人達は武器を投げ捨て、逃げ出していく。
しかし、アルマはそれを逃そうとはしなかった。
黒い瘴気を全身に纏い、移動の軌道が見えないほどの速度を叩き出す。
瞬きの度に人が死んでいくかのように、死の光景の絵を次々と追っていくように、凄まじい速度で命が奪われていった。




