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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1211/1603

4y

 ――光の国にて……。


「どこお……? どこなのお」


 アルマはふらふらと村の中を歩いていた。

 まだ昼ではあるのだが、時期も時期な上、そこまで栄えた村でもないことも相成って人気(ひとけ)はない。

 彼女は耐え難い殺人欲求――というより、それで得られる快楽が目当てか――に駆られ、人を探していた。

 初めて、復讐とは関係のない人物を殺して以来、彼女は定期的にこうした発作に襲われていた。


 既に、殺した人数は両手でさえ数え切れない数に到達し、殺しに対する忌避感などは微塵もなくなっている。


 早く誰かを見つけなければ、と思っていた時、彼女は一人の少年と目が合った。

 その少年は素裸のアルマを見て、硬直していた。


 ぼんやりと光る双眸(そうぼう)でも、死人のような肌でもなく、見たことのない異性の肌が気になっていたのだろう。

 忘れてはならないのだが、彼女は変異こそしているが、その美しい容貌などは一切変わっていない。

 貴族階級の高貴な顔つきを、ただの民間人が見てしまえば、心を奪われるのも当然のことだった。


 じっと見つめ合った後、アルマは彼に近づいていく。

 少年は露骨に視線を泳がせるが、彼女は気にしていないように、同じ速さで進んでいった。


 そして、彼の眼前にまで到着すると、自分より少し背の低い少年の顎を手で撫でた。

 彼は興奮により、ひんやりとした感触を心地よいものと思い、紅潮する。


 瞬間、彼の首は吹っ飛んだ。

 子供の首が転がり、血だまりが村の一角に作られる。


「きもちいいよお……でも、なんか……」


 既に屍となった子供を見下ろし、彼女は口許を歪めた。

「もっと、もっときもちいのが……ほしいのぉ」


 まるでおもちゃで遊ぶように、彼女は少年の手足をもぎ取り、体を引き裂いていく。

 そうしてある程度体をばらした時点で、彼女は恍惚とした表情を浮かべ、痙攣しながらくたっと倒れ込んだ。


 その地面が血に濡れていることなど考えずず、心地よい気怠(けだる)さの海に沈んだ。


「ひもちぃ……」


 まるで中毒に陥ったかのように、彼女はとろけた顔で譫言(うわごと)を呟いていた。


 逃げなければならない、見つかってはならない、などということは頭になかった。

 今はただ、この快楽を味わうことにしか意識が向いていない。


 しかし、当然のように人が出てきた。

 叫び声を上げる間もなく殺された為に、気付いて出てきたわけではない。この少年と同じく、偶然のように家の外に出てしまったのだ。


「ひっ……きゃあああああああああああああ」


 金切り声が村に響き、一斉に人があふれ出してきた。

 何ができるというわけでもないにもかかわらず、村人はその惨状を目にし、憤ったり、嘆いたり、絶望したりした。


「子供……?」


 アルマの姿を認識した後すぐに、その近くに転がる首を見つけた。

 皮肉なことに、首を撥ね飛ばされたことで、誰かを識別できるような顔が綺麗に残っていた。


「坊や……坊やが!」


 母親と思わしき女性は近くに置いてあった(くわ)を持ち、アルマへと迫っていく。

 誰もそれを止めようとせず、それぞれが武器を持ち寄って、彼女を殺そうとする。


 その光景は、いつか彼女が《星の秘術》を使った時に似ていた。

 戦う力のない者達が、戦うべき状況によって立ち上がり、悪を討ち滅ぼすという。


 快感に堕ちていたアルマの体に、鍬の一撃が炸裂する。

 華奢な体は容易に鉄を受け入れ、中身をぐしゃぐしゃにされながら、血を吹き出していった。


 そこでようやく、アルマの意識が冴えた。鋭い痛みが、彼女の酩酊(めいてい)を解いたのだ。


「いたい……いたいよ」


 攻撃を浴びせられながら、ゆっくりと立ち上がるアルマを見て、村人は戦慄した。

 母親と思わしき者は鍬から手を離し、後退りをする。


「痛いッ!」


 甲高い声が耳に届いた瞬間、女性の胴体は斜めに引き裂かれ、恐怖に歪んだ顔が上半分と共に転がった。


 あまりにあっけない死に、村人達は武器を投げ捨て、逃げ出していく。

 しかし、アルマはそれを逃そうとはしなかった。


 黒い瘴気を全身に纏い、移動の軌道が見えないほどの速度を叩き出す。

 (まばた)きの度に人が死んでいくかのように、死の光景の絵を次々と追っていくように、凄まじい速度で命が奪われていった。


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