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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1210/1603

3s

 足に導力を集め、沼にはまらないようにしながら、二人は駆け抜けていく。

 このような技術が使えるならば、普段から使えば良いと思うかも知れないが、こうした精密操作はかなり精神を消耗するのだ。

 今のように、急を要する場合を除いては、使用するべきではない。


 そうして木々の減った場所に到着した頃、ようやく敵影を捕捉した。


「こちらに気付いているか」

「……いえ、まだみたいですね。ですが、村の存在は察知しているかと」


 でもなければ、このような場所に魔物が来るはずもなかった。


 二人の視線に映るのは、白い鳥のような姿をした魔物である。ただし、その姿は泥に汚れており、ほとんど灰色といっても良かった。

 距離があるとは言え、相手の体躯が体躯だけに、それくらいは判断ができる。


「鈍色か」

「でしょうね」


 傾向として、藍色の瞳を持つ魔物は虫型が多い。

 ただの傾向でしかない為、完全な特定はできないが、それでもおおよその戦力を測るには十分だった。


「俺は警戒に努める。お前は――」

「上級術を用意しますよ」


 だいぶ勝手を理解してきたらしく、彼は自分から行動を伝えた。

 ウルスは口許を緩め「分かった」とだけ答える。


 魔物は急いでこちらに向かうというわけでもなく、本来の速度からしてもかなり遅鈍な動きで、歩を進めていた。

 長らく餌を喰らっていないのか、それとも急く必要がないのか、それは少なくとも彼らの考えになかった。

 

 じっくりと時間を掛け、術の順列を上げていく。


「……気付いた! とりあえず形にしろ!」

「分かりました」


 ウルスは走り出し、魔物へと接近した。


「《火ノ六十七番・灼炎(フレイムバースト)》」


 周囲一帯に炎が撒かれ、魔物を止めようとするが、平然と火の海を突っ切ってくる。


「だろうと思った……ぜ」


 彼は片手に炎を集約させ、刃として放った。

 強烈な一撃が刺さり、白鳥の魔物は吹っ飛ばされる。


 そして、事前に発動した術により、起き上がるまでの間に発火が進んでいく。

 白い羽は赤々と燃え上がり、怒り狂ったようにウルスへと迫った。


 彼は咄嗟に背後を確認し、足から炎を噴射することで二段の跳躍を行い、魔物の頭部に到達する。


「もう少しだ、待ってろ!」


 炎の噴射によって加速された蹴りが魔物の顎に炸裂し、空中に投げ出される。

 それを確認するまでもなく、ウルスはクオークの元に向かって駆け出した。


「《天ノ百二十六番・氷結槍(フリージングバウンス)》」


 まさにちょうどというタイミングで、クオークの術が発動する。

 橙色に輝きながら、《魔導式》は大気に溶けていき、現象を生み出した。


 周囲の空間から収束された水分が凝固し、人ほどの大きさの氷柱(つらら)――氷の槍が形成される。

 それは凄まじい速度で空中の対象目掛けて放たれ、その胴体を捉えた。


 刹那、強烈な爆発が起き、煙の中から黒い粒子が空に向かっていく様が見えた。


「決着、だ」

「……どうにか早めに決着がつきましたね」

「よし、さっさと撤収する――」


 振り返った時、そこに泥だらけの子供が居ることに気付いた。

 魔力も乏しく、あの戦いの最中だと言うこともあり、誰も存在を認知できていなかった。


「……来るな、といったつもりだが」

「ウルスって、本当につよかったんだな」

「失礼なガキだ。たりめぇだろうが」


 彼はそう言うと、帰り道を進み始めた。クオークも少し気後れしていたが、すぐに彼を追いかける。


「ウルス! ……おれに、戦い方を教えてくれよ!」

「は?」

「おれも、つよくなりたいんだ。ウルスみたいに、戦いたいんだ」


 彼はしばし迷った。

 少年の見せる顔は、期待に満ちており、それは恰も――。


「(師匠の仕業か? 意地の悪いことだ……だが、師匠はもういない)」


 彼は目の前の少年と、過去の自分を重ねていた。

 そして、これがトリックなどではなく、紛れもない今の現実であると認識もしていた。


「チッ、戻ってきた時に少しくらいは付き合ってやる。俺ほどになれるとは保証できないが、ある程度戦えるように仕込んでやる」


 ラクーンは笑みを浮かべ、大きく頷いた。


「ウルスさん、本気ですか?」クオークは耳打ちをする。


「こいつの生きがいとなるならば、それも悪くないかも知れない。それに、生きる為の力は与えておいて損はないだろう――なにせ、こいつは勉強をする気のない、馬鹿だ」


 似ているからこそ、この少年の本質が見えていた。

 彼が学ばない本当の理由は、勉強というものを苦手としているから、ということも。


 だからこそ、彼は分かりやすく、そして憧れがちな力を与えることで代用としようとした。



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