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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1208/1603

人と魔物は違い、故に共に在ることはできず

 ――光の国、東部戦線にて……。


「ダーイン、これをどう思う」

「……魔物以外、と断じるのが妥当でしょうね」

「何故、私には聞かんのだ」


 幕営の中に、普段はいない男がいた。

 というよりも、今日は珍しく全員が揃っているだけであり、彼自身はよくこの場所を訪れている。


「私は人間の手によるものと考えた。そして、ダーインもそうだと言った。二人が合致すれば、それは妄想にはならない。違うか、タグラム殿()

「……気にくわない男だ」


 口を挟みながらも、タグラムが文句を付けたのは彼の態度だけだった。

 それはつまり、彼もまた同様の考えであるからだろう。

「しかし、こちらの兵がああも容易く殺されるものか? ……単独行動をしていた馬鹿がいるならばまだしも、小隊規模で動いている者達まで殺されているという話ではないか。認めたくはないが、魔物という線も見るべきだと思うが」


 そう、この東部戦線では今、大きな問題が起きていた。

 首都で起きていたことと同じく、騎士の殺害。

 これ自体は戦場である以上、そこまで意外なことではないのだが、問題は殺害方法だった。


「数人の検死を行いましたが、あれは魔物や羽虫に襲われた傷ではありません。ですが――傷口から魔物の痕跡はうっすらと感じられました」ダーインは言う。


 そう、騎士を殺したのが紛れもなく、人間であるということだった。

 大型の魔物であれば、死体は残らないか、残っていても凄まじい部位欠損が見られる。

 羽虫にしても、破壊の規模は人間が簡単に行えるようなものではない。


 具体的に言えば、死亡した騎士は体を引き裂かれたり、首が()ね飛ばされたりという具合なのだ。

 魔物であれば、命を奪っただけでは止まらず、かなり死体を荒らしていく。


「魔物が死体を貪った線はあるか?」とシナヴァリア。

「なきにしてもあらず、ですね。しかし、命を奪ったのが人間であるのは確かかと」

「だから、ただ一人(・・)の人間に我が精鋭が殺されるはずがないと――」

「ともなれば、いつかのもどき(・・・)か」


 それでタグラムは黙り込んだ。


「生き残りがどこかにいる、とすれば……ですが」

「ああ、気後れをしたところで、相手を始末することはできるはずだ。その痕跡が僅かにもないのが奇妙だ」


 魔物の死体は残らない。残りはしないが、人間ではない力の痕跡は確かに残るのだ。

 それもほんの少しなどではなく、慣れた者であれば見落としようのない濃度で。

 なにより、勝利すれば一人や二人は残るはず。それがない以上、一人相手に全滅したことになる。


 件の人と魔物が混ざった個体や、人から生まれた魔物などは、そこまで高い戦闘能力を有してはいない。


「ならば、我が軍の中に裏切り者がいるとでも? ハッ、そんなことができるとすれば、あなたくらいのものだと思いますが?」


 タグラムは皮肉を込め、シナヴァリアにそう言った。

 しかし、おおよそ見当違いなことでもなかった。

 純粋な近接戦だけで小隊を撃破するとすれば、彼レベルの能力が必要となる。


「とりあえず、調査をする必要がある。タグラム殿、しばらくは前線の指揮を任せたい」

「その為に呼び出したのか」


 今まさに皮肉を言われたばかりだというのに、シナヴァリアは顔色一つ変えず、頼み事を行う。

 これができる辺りが、彼の強さといっても過言ではないだろう。


「事情が事情だ。私が単独で探りを入れる」

「お前を疑ってもいる者に言うのか」

「あなたが疑おうと疑うまいと、私には関係がない。元暗部の人間である私が動くのが、得策だと思うが」


 それを言われ、彼は露骨に嫌悪感を滲ませた。


「あの馬鹿がいれば、お前のような男に頼らずに済んだのだがな」


 タグラムとダーインの視線が合ったのを見て、シナヴァリアは僅かに疑問を抱きながらも、続ける。


「……? 了承した、ということでいいのか」

「苦肉の策だ」


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