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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1207/1603

14y

 夜遅く、アルマは目を覚ました。


「注意しなきゃ」


 誰かが近づいてきたことを気付き、彼女は人払いをしようとしたのだ。


 ただ、これは自分のことというより、相手を考えてのものだった。

 この泉は本来、《星霊》が使う場所であり、人が足を踏み入れるのは危険である。


 彼女は暗闇だったことも相成って、周囲に《星霊》が居ないことに気付かなかった。


「……」


 旅の行商人と思わしき男が目に入り、アルマは少し考えてから彼の傍へと近づいていく。


「ここはやめた方が良いよ」

「何言ってんだ。俺はここで休憩を――」


 疲れて顔を合わせていなかった行商人だが、闇の中に浮かぶ一対の光を見て、身を震わせた。


「ここは星れ――」

「ま、まもの……!? 軍が請け負ってるからって聞いてたのに、こりゃ……」


 こんな時期に行商人をするという無謀な行為だが、彼は自分なりにそれが実行である、という算段を立てて動いていたようだ。

 実際、大型の魔物の大半は主戦場であり、首都付近にはそうそういるものではない。


 ただ、今の問題は彼の事情などではない。そうした言葉を向けられた、アルマの方にあった。


「まも……の?」


 彼女は俯いたまま、近づいていく。


「く、来るな! 来るなああああああああ」


 ゆらゆらと上下左右に揺れる黄色の光に恐怖を抱き、男は背嚢(はいのう)に詰めていた林檎を取り出し、投げつけた。

 それは彼女のひどく白い肌に命中し、うっすらと痣を付ける。


「あたしは……魔物じゃ」

「な、なら何だって言うんだ! そんな死体みたいな肌をした奴が、人間のわけがない!」


 効果がないと見たからか、男は咄嗟に見つけた手の平大の石を掴み、投げつけた。

 避けるという考えが浮かばなかったアルマの体に、再び攻撃が命中する。


 今度は痣程度では済まず、血があふれ出してきた。

 石膏のような肌に、すーっと赤い血が流れていく。


 ぼんやりとした目で、彼女は自身の傷口を、そして血の線を追った。


「あたしは……」

「く、来るな! 死ね!」


 そう言いながらも、彼にはもう抵抗する手段がなかった。

 アルマはどんどん迫り、彼の眼前に到達した瞬間――闇の中で黒が横一線に走り、鮮血が追う。


 上半身と下半身が分かたれた死体を見下ろしながら、彼女は身を震わせた。


「あれ? ……あれっ? なんでだろ……なんで、こんなに気持ちいいんだろ」


 体の奥から激しく昇ってくる快感に、彼女は困惑していた。

 白い肉の皮を隔てた中身が、溶けて混ざるような感触は、何よりも果てしなく大きな快楽をもたらす。


「人を殺すのって、こんなに気持ちいいんだ……もっと、もっとしたい……もっと気持ちよくなりたいよお……」


 彼女の頭にあったのは、全身を走り、なおも強い余韻を残す感触への渇望だった。

 命を奪う罪悪感や、戻ろうとした日常などは頭から消えてなくなり、はじめての快楽を求めるだけとなった。


 アルマは、間違った手段で覚えてしまった。そして、本来ならば知り得ぬものを覚えてしまった。

 元来、痛みや労の末に得られる快楽を、彼女は容易に獲得してしまったのだ。


 身悶えるほどの心地よさを抑え、彼女は人里を目指して歩き出した。

 アルマは、快楽の虜となってしまった。


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