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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1205/1603

12y

 ――光の国、首都ライトロードにて……。


「おい、騎士が惨殺されたってのは本当か!?」

「どうにも、本当らしいぞ……」

「私は見たよ! 割れている窓を覗きこんでみたら、首なしの――」


 それを言うと、中年女性は吐き出した。

 ライトロード人――それも、戦いと無関係にあった者からすれば、それは途轍もないショックをもたらすものだったのだ。


「俺達も、狙われているのかな……」

「いや、そんなことはないだろう。殺されたのは騎士だろ? 家まで向かって殺しているし、無差別ってことはないだろ」

「あー確かにそれは言えるな……しかし、こうなると一人で居るのは危なそうだ」


 アルマは気付かれないように隠れながら、そんな会話を聞いていた。

 結局、騎士を全員殺してもなお、彼女は元の姿に戻ることはなかった。

 その肌は死人の白のままだが、見え方は全然違う。


 昨日は男達の体液まみれだった体だが、今は同じ男達の血液に濡れている。それでさえ、乾いて茶褐色となっていた。

 鉄臭さを放っている以上、表に出れば間違いなく事件の関係性を疑われるだろう。


「なんで、戻れないの……? これじゃ、ここには――」


 アルマは《光の門》に接続しようとするが、黒の混じったひどいノイズにより、全く上手くいかない。

 幸か不幸か、この国の監視網は当時から改善されていない。光の国の住民であるアルマならば、表立った記録には残らないのだ。


 とはいえ、善大王のように検索の手段を細かく命令できる者が現れれば、誰が殺したのかは明らかになる。

 彼女は戻りたいと思いながらも、一時的に首都を離脱することにした。

 時間さえ経てば、元に戻ると楽観視しているのだろう。


 そうして国の外に出たアルマは、付近を飛び回る羽虫と遭遇した。


「……っ」


 当たり前だが、魔物が淘汰されていない以上、こうした目立たない個体は放置される傾向がある。

 首都の近くまで迫っていたとしても、肝心の壁を突破することはできない、という油断もあった。


 アルマは《魔導式》を展開し、これを撃退しようとするが――《魔導式》は展開されることなく、すぐに風化するように消えてしまう。


「な、なんで……? どうして」


 下級術に落としても、何の関係もないことが明らかになるだけだった。

 黄色の《魔導式》は、ある時点に到達すると黒い斑点のようなものが湧き出し、色を侵蝕してしまう。


 羽虫は近づいてくるが、いつまで経っても《魔導式》は完成しない。それどころか、壊れるばかりで何も進んではいなかった。


 騎士を殺したことを思い出し、彼女は素手でこれを打ち倒そうとする。

 すると、今度は力が抵抗することはなく、黒い瘴気が彼女の手を包んだ。


「これで、勝てる――」


 攻撃しようとした瞬間、羽虫は彼女を素通りし、あてどなく飛び回り続けた。


「……へ? どう、して? なんで?」


 近頃、知性が確認された魔物だが、最初期にしても一つの知性的行動は見られた。

 それは、同族同士で戦うことがなかった、ということだった。


 アルマはそうした事情を知らない。ただ、直感的にそれを悟ってしまった。

 魔物にとって、自分は敵対する対象ではなくなってしまった、と。


 彼女はそれを認めることができず、逃げ出した。


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