10y
アルマの意識は、次第に闇に堕ちていった。
その通りにすれば、消えることのない痛みがなくなるのではないか、と思うようになっていた。
「わるいひと達を……殺せば」
「ええ、あなたは元に戻れますわ。元の場所に戻って、全てが上手くいきますわ」
「元に……? 本当に?」
彼女の脳裏に、幸せだった時の記憶が巡った。
善大王や、フィアや、ダーインや、インティらと一緒に居た時の――まだ、穢される前の思い出が。
戻れると聞いた瞬間、枯れていた彼女の涙は再び流れ出し、罪悪感が完全に消えた。
残ったのは、ただ帰りたいという気持ちだけだった。
「力を差し上げますわ。あなたを壊そうとする者を、あなたを脅かそうとする者を退ける力を」
彼女が心の底からそれを望んだ瞬間、目の前に芋虫が現れた。
イボだらけの皮膚を思わせる、青紫がかった肌色の荒れた外皮を持つ醜い虫。
「やっ……!」
その姿を見て、アルマは気色悪さを覚え、逃げようとする。
仰向けになり、腕を立てることで状態を起こし、虫から目を離さないようにした。
そのまま、足を摺り、後方へと下がっていく。
這いずったまま逃げるアルマ。それを這って追いかける芋虫。
そんな様を見て、ライムは口許を緩めた。
「それが、あなたが本当に望んだものですわ」
「やだ……やめて」
「ずっと、あなたが欲しがっていたものなのに、それはあんまりではありませんこと?」半笑い気味に言う。
「きもちわるい……助けて……」
「それとあなたに、どの程度の差がありまして? わたくしからすれば、どちらも同じようなものですわ」
それを言われた瞬間、彼女は逃げる意志を喪失してしまった。
無抵抗に四肢を投げ、皮肉にも元通りの体勢に戻る。
すると、芋虫は彼女の股座に進み――体の中に入った。
激しい痛みが襲いかかり、体を反らせながら絶叫するアルマを見て、ライムは口許を隠しながら笑う。
痛みが体を走る度、彼女の体は血の気を失っていき、真っ白になっていく。
それだけではなく、髪の色は銀色から黒に染まっていった。
エルフの白い肌も比較にならない、死人のような白一色の肌になり、髪が真っ黒に染まった頃、彼女は痛みに悶えるようなことはなくなった。
大きく見開かれていた瞳の虹彩は、ぼんやりと黄色に発光し出す。
体を支配していた痛みが薄れると、男達に乱暴されたことによる疼痛も消え、彼女はすっと立ち上がった。
それを嘲るように見ていたライムには目もくれず、彼女はゆらゆらと、裸のままで外に出て行った。
全ては、復讐を果たす為に。もはや存在しない痛みを消す為に。
そして、元の場所に帰る為に。