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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1201/1603

8y

 アルマは普段着に戻ると、近衛騎士の詰め所に向かった。

 正確には、彼らだけのものではないのだが、ほとんどの騎士が出払った今では彼らの集う場所である。


「こんにちはー」


 詰め所に入ったアルマは、違和感に気付いた。

 普段であれば、この場所はそれなりに賑やかであり、彼女が来たとなれば騒がしいくらいである。


 誰も居ないのでは、と心配になりながらも、彼女は奥へ奥へと進んでいく。

 いろんな部屋を見て回るが、やはり誰も居ない。とはいえ、人気(ひとけ)が全くないということもなく、魔力は確かに存在していた。


「……どうしたんだろ」


 迷った挙句、彼女は魔力が集まっている部屋を目指した。

 何かサプライズがあるのでは、と思いながらも、彼女は驚かないように覚悟を決めてから扉を開けた。


 しかし、戸を開けた瞬間、驚くほどの暗闇を見て彼女は唖然とした。


「なんにも見えない……みんなーどこ――」


 何者かに掴まれ、彼女は咄嗟に逃げようとした。

 普段の彼女であれば、ここで挨拶をするくらいの能天気さを発揮するものだが、乱暴な手つきな時点でそうする気はなくなっていた。


 というより、そんなことをした時点で、この部屋の中には自分の思っていなかった何かが居るという線が浮かび上がってくる。


「誰!」


 彼女は警戒心を露わにし、《魔導式》を展開した。

 仄かな灯りが暴き出したのは、人の腕。それは一本や二本ではなく、無数に闇の中から伸びてくる。


 その一つが体に触れた瞬間、他の腕も我先にとアルマの体を目指してきた。

 彼女は恐怖を覚え、《魔導式》の維持ができなくなる。

 そのまま、無数の何かはアルマを無理矢理に押し倒し、地面に張り付けた。


「は……放し……」


 怯えた彼女の声は震え、強さを示すことはできなかった。

 闇からは薄笑いだけが返ってくるだけで、彼女の言葉に応える者は誰もいない。

 それどころか、一つの腕は彼女の口を塞ぎ、また別の腕は四肢をより強く押さえつけた。


 本格的に身動きが取れなくなった瞬間、アルマは魔物と相対する時とは違った、死ではない恐怖を覚えた。


「(怖くても……どうにかしなきゃ――悪い人達を、倒さなきゃ)」


 彼女はひどい手順で《光の門》に接続し、状況を打開しようとした。

 普段であれば一瞬で行えそうなことでも、恐怖と焦りによって精彩を欠いた今の彼女では、長い時間が掛かる。

 そうして手間取っている内に、服が剥ぎ取られた。

 恥ずかしさよりも、やはり恐れが勝った。相手が誰なのかも分からない以上、仕方のないことである。


 そんな時、声が聞こえてきた。というより、ようやく聞き取れるようになってきたのだ。


「くそ、これじゃあよく見えない」

「馬鹿やめろ!」

「どうせ誰もこないだろ! なら――」


「(この声、どこかで……)」


 アルマがそう思った瞬間、カーテンは開け放たれた。

 まだ明るい外の光が差し込み、中に居る者達の顔が明らかになる。


「おぉ、これが姫の体……」

「やはり、高貴な女性はいい」

「だ、だれ……? こわい……や、めて……」


 そこにいた者達は、間違いなく近衛騎士の男達だった。

 彼女は顔も声も、名前までも覚えているはずなのだが、それらと同一の存在とは認識できなかったらしい。


 男達は欲望に取り憑かれた、歪んだ笑みを浮かべている。彼女の知り得ない(よこしま)な感情が、そこには満ち満ちていた。

 だからこそだろうか。その強い悪の感情が仮面のように貼り付き、別人だと感じさせたのだろう。


「この頭巾も……」

「や、やだ! やめて!!」


 必死に首を振って抵抗するが、彼女の年相応の力では大の大人の力に抗うことはできず、あっさりと赤頭巾は取り払われた。

 すると、彼女が隠していたエルフのような耳が晒される。


「これは……なんと、姫はエルフだったのか」

「高貴な血で、その上エルフ……なんと素晴らしいのだろう」

「こんな僥倖(ぎょうこう)はそうそうない……へへ」


 彼らは驚くことも、嫌悪感を示すこともなく、ただ単純に興奮していた。

 先に述べていたように、彼らは高貴な女性――つまるところ、王族の娘であるアルマに情欲を(もよお)していたのだろう。


 素裸になったアルマをじっと見つめていた男達は、そのまま――。


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