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俺は深呼吸をすると、《光の門》へと足を踏み入れた。今度こそは、意識を保って奥までいき、スカーレちゃんを助ける。
覚悟こそ決めたが、すぐに視界がブレた。もはや、意思などでどうにかできる次元ではない。
ただ、そこで引き返すことはせず、俺はかつてのように感覚に任せて歩みを進めた。
いつかのように、《光の門》中心部が視界に映り込んでくる。
……また、ここに来てしまったか。
中央には、俺が落ちた大穴がある。……ただ、あの時に途切れていた橋は直っているようだ。
死の欲求を押さえながらも奥へと進み、橋に足を乗っけた。その瞬間、橋が崩れ出す。
俺は急いで渡りきり、どうにか無事に進むことができたが、複数人で来ていたのであれば何人かの犠牲が出ていただろう。
クラークが何かを仕組んでいたのか……いや、今は早く進むべきだ。
螺旋階段を昇り、上へ上へと進んで行くと、広い部屋に到着する。《光の門》の影響も少なくなっているのか、意識も明瞭だ。
「まさか、善大王が来るとは……」
そこに立っていたのは、間違えるはずもない、管理官のクラークだ。
「スカーレちゃんを返してもらおうか」
「このエルフですか? ……そうはいきませんねぇ、これは私の大切な実験材料なんですから」
そう言いながら、スカーレちゃんの肌に手を添わせ、下卑た笑いを浮かべる。
「お前……っ」
「たかがエルフですよ? 稀少ではありますが、民ですらありません……ムシケラ程度の命なのですから、善大王が動く必要はありませんよ」
確かに、スカーレちゃんは光の国の人間ではない。だが、それでもこの子は間違いなく生きている。
そして、何よりもこの子は幼女なのだ。それを見捨てられるはずがない。
「お前、何の為にこんなことをしている」
「ハハ、私はエルフの技法の研究をしているのですよ。おそらく、この一体でエルフの秘密を解き明かし、人間を新たに進化させる力が得られるはずです」
「何が言いたい」
「私の研究を援助していただけるのであれば、この国に残りましょう。断るならば、闇の国に亡命します。どうしますか? エルフの技法が欲しければ――」
憤り、俺は無言で《魔導式》を組み上げ、術を発動した。
光弾がクラークの首筋を掠り、壁に衝突して消える。
「エルフだろうとも、その子が幼女ならば……助ける」
「冗談とばかり思っていましたが、こんな場で言うなんて――本当な馬鹿者らしいですねぇ」
台座の上に置かれたスカーレちゃんの場所まで行くのは不可能。俺が今すべきことは、こいつの撃退。
「《光ノ二十番・光弾》」
高速で《魔導式》を展開し、術で攻撃する。クラークは光の国の人間だが、俺の戦闘については全く知らなかったのか、驚愕の表情を浮かべる。
今度は直撃狙いだったが、クラークも確実に回避してくる。ただ、それでも面制圧していけばいいだけのこと。
俺は下級の術、特に《光ノ二十番・光弾》の練度を高めている。他の上級術クラスは威力こそ高いが、所要時間が掛かり過ぎる。
逆に、このような下級術はかなりの手数で打てる。その上、鍛えさえすれば十分な火力にもなってくる――まぁ、総火力重視の情勢を見るに、俺は異端と言えるが。
「変わった戦い方をしますねぇ。いえ、悪くはないのですが」
「ハッ、余裕を持てるのは今の内くらいだぞ?」
クラークは《魔導式》を展開していく、それが中級から上級まで伸びることは知識と経験で理解できた。
「《光ノ二十番・光弾》」
凄まじい速度で発動された光弾がクラークの《魔導式》を打ち抜き、強制的に解除させる。
そのまま追撃でもう一発放つが、これはやはり回避される。
「妨害されて火力を高めている場合ではありませんねぇ」
クラークも対抗するように藍色の《魔導式》を展開し、術を発動してきた。
「《闇ノ十四番・闇刃》」
規模を落してきた。それでようやく俺の速度に追いつくという程度。さすがにここまでの下級術を《魔導式》段階で打ち落とすのはできない――どちらにしても、割に合わないしな。
藍色の刃が俺の方に投げつけられるが、そんなものを回避できない俺でもない。
軽く回避し、《光ノ二十番・光弾》を発動した。
咄嗟に緊急回避に移ったが、それでも攻撃は掠る。そして、俺の術は既に発動している。
「なッ――この速度で!?」
もう一発の光弾がクラークに直撃し、吹っ飛ばされている最中にさらに光弾を放つ。
これこそが俺の戦闘スタイル、一発一発の打点よりも手数を増やして敵を制圧する戦法。
ただ、殺そうとはしていない。しようとすれば簡単だが、こいつの目的がなんなのかを探らない限りは殺す意味もない。