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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1199/1603

6f

 ――フレイア、場末の酒場にて……。


 ガムラオルスは一杯の酒を前にし、黙っていた。

 そうしていると、すぐにスケープがやってきて、彼の隣の席に座りこむ。


「任務はどうだったんですか?」


 身を乗り出す勢いで聞いてきた彼女の顔を横目に、ガムラオルスは酒に口を付けた――どころか、一気飲みの勢いで流し込み始める。

 素面(シラフ)の彼らしくもない飲み方に驚き、スケープは心配そうな顔をした。


「大丈夫ですか?」

「……大丈夫だ」


 いくら覚悟を決めた彼であっても、今から告げる内容は平然と言えるものではなかった。

 決して強くない、ありふれた一人の男であるからこそ、彼は酒の力を借りたのだ。


「俺は故郷に戻っていた。そこで、幼馴染の女と会った」

「はい。元気でした?」

「ああ」


 相も変わらぬ察しの悪さに困りながらも、彼は分かりやすい言い方に切り替えた。


「俺はその女に告白してきた。恋人になった」

「……」


 ここまで直接言われては、彼女も理解せざるを得なかったようで、黙り込んでしまった。


 彼も全く罪悪感がないわけではなかった。むしろ、罪の重さは凄まじいものだった。

 彼は死したスタンレーから彼女を託されたようなものであり、自分が支えていくという意志を持っていたからこそ、彼女を味方に引き入れることができた。


 ここで別れよう、というのは明確な裏切りだった。


「良かったですね」

「……皮肉か?」

「ミネア様から聞いてましたよ? だから、むしろワタシのところにいるのが不思議なくらいでした」

「すまない」

「何で謝るんですか?」

「……俺はあいつと付き合う。だから、お前とは別れなければならない――中途半端なことは、どちらにも悪い」


 遠回しな言い方が通じないと思っていただけに、彼は苦しい思いをしながらも、直接言った。

 しかし、今度は止まることも、驚くこともなく、スケープは頷いた。


「分かりました」

「……おい、良いのか? 俺はお前を騙していたんだぞ」

「騙していた? ガムラオルスさんは、ティアって人と仲直りするまでは、本当にワタシを愛してくれていたんですよね? なら、それでいいじゃないですか」

「なんで……なんでそう簡単に許してくれるんだ。俺は――」

「ここで、ワタシだけを見てくださいといったところで、ガムラオルスさんは止まれない……でしょ?」


 まさしく、その通りだった。

 だが、彼はスケープに責めて欲しかったのだろう。叱責を受け、誹られ、そうすることで罰としようとしたのだ。


 しかし、彼女はあっさり許してしまった。とても物分かりのいい子供のように。

 故に、彼は余計に苦しくなった。


「どうしました? 吐きに行きます?」

「……いや、大丈夫だ」

「なら、そんな顔しないでください。ガムラオルスさんに、そんな顔は似合いませんよ」

「だが……」

「だって、ワタシはガムラオルスさんが好きだから。だから、できれば困らせたくないんですよ」

「……」

「その代わりといっては何ですが、一つだけいいですか?」


 ガムラオルスは黙ったまま、こくりと頷いた。


「ワタシは二番なんて贅沢なことは言いません。ですから、ワタシを娼婦として使ってください。火の国に居る間だけでも」

「……」


 彼はようやく、スケープの顔を直視した。

 無理して言っているように見えない彼女を見て、ガムラオルスは笑い声をこぼした。


「まったく、お前は本当にいい女だよ」

「それはもう。天下の将軍様なら、実入りもいいですし」


 スケープは本当に、無理をしているわけではなかった。

 彼女は自己評価がそもそも低い。だからこそ、ティアとガムラオルスを取り合えば、間違いなく自分が負けると断じていたのだ。


 二人で一人の男を分け合う、ということが成立しないことも、彼女はよく知っていた。

 故に、彼女は娼婦でいいと言った。もとより、彼とは体の関係が強く、彼女自身もその仕事を未だに続けているのだ。


 大したことのない男と仮初めの愛を誓うよりも、体だけの関係であっても、自分の好む相手と共になる方が幸せだと彼女は判断したのだ。


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