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――火の国、フレイア城にて。
「なに!? 取れなかったというのか」
「はい、申し訳ありません」
フレイア王は本当に驚いた様子で、顎髭を撫でた。
そんな彼の隣に立つヴェルギンは口許を緩めており、この結果を喜ぶような反応を見せている。
「さて、どうしたものか……」
「俺に、戦わせてください。この国で」
「なに?」
王の低い声を聞き、怯みそうになるが、彼はティアへの愛を偽りにしない為にも恥や恐れを消し去った。
「将軍の職は辞します。この身、ただの一兵としてでも、使ってください」
「随分と違う態度だ……あの山で何があった」
「女を一人、待たせています。この戦争が終われば、迎えに行くと……と。だから――」
「だから、使えと」
ガムラオルスは迷いのない顔で、頷いた。
そんな若者の、恥ずかしがりもしない態度を見て、ヴォーダンは困り果てる。
「いいではないか、ヴォーダン。どうにも、ガムラオルスはいい経験をしてきたようだ。きっと、以前よりも使えるぞ」
そこで、ヴェルギンは補助に回った。
「そういうものか」
フレイア王はしばし考えた後、ガムラオルスの名を呼んだ。
「分かった。ガムラオルスよ、お前を引き続き使おうと思う」
「……ありがとうございます!」
「だが、将軍職を辞するというのは取り消してもらおうか。生憎、この国には将の務まる者がいないのでな」
これで戦う立場が得られたと思い、ガムラオルスは笑みを浮かべ「はい!」と応じた。
「では、下がれ」
師匠の顔を一瞥し、ガムラオルスは謁見の間を後にした。
廊下を歩いている最中、壁に寄りかかって立っていたミネアが声を掛けてくる。
「随分と態度が変わったわね」
「聞き耳を立てていたのか?」
「……それがどうしたのよ」
彼女が息切れぎみだったこともあり、彼はミネアが少し前まで謁見の間の近くに待機していたことを読んだ。
「いや、何も」
彼は素っ気ない態度を取り、進んでいこうとした。
そんな対応が楽しくなかったのか、ミネアは急いで彼を追い、目の前で止まる。
「何があったのよ」
「ティアに告白をしてきた」
「……は?」
「あいつと結婚する為にも、俺はこの戦争を早く終わらせなくてはならない――聞いていたなら、これが全てだ」
もちろん、ミネアはこれを聞いていた。聞いてはいたが、本気で言っているとは思っていなかった。
当たり前だ。彼女は彼がどれほど真剣な表情で、これを言っていたのかを知らないのだ。
「け、結婚……? まったくワケが分からないわ」
「すまない。急いでいる」
「待ちなさいよ! ……スケープはどうするつもりよ」
「今から、向かうところだ」
彼の表情にどこか悲しみが含まれていることに気付き、彼女は何も言えず、自分を避けていく弟弟子を素通りさせた。