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アルマは何日も掛け、幾つもの町村を巡り、人々の話を聞いて回った。
決して状況はよくなかったが、聖女が直々に来たとあり、多くの者達は喜んでいた。
そうして、経由する集落をあらかた回り終わると、彼女は当初の目的地である東部戦線に向かう。
彼女からすれば、今の光の国を根本的に直す為には、シナヴァリアやダーインの存在が必須なのだろう。
ダーインならばともかく、シナヴァリアを国に戻す為には、直接話し合うしかない。
事実、彼はアルマとはあまり連絡を取っていないのだ。
高速馬車に揺られながら、幕営に到着したアルマは兵士達に挨拶をしながらも、一直線に司令部へと向かう。
「ここ?」
「はい!」
「ありがとう」
アルマは案内をした兵に礼を言うと、幕を開けて中に入っていった。
事前に連絡を入れていたこともあり、ダーインとシナヴァリアが部屋の中に待機している。
「姫、よく来てくださいました」
「うん。ダーインさんも元気そうでなによりだよ」
ダーインは彼女を出迎えたが、シナヴァリアは机に向かい合ったまま、立ち上がろうとしない。
無礼な行為のようにしか思えないが、それは彼も承知の上である。
「宰相、姫様が来てくれたのだぞ」
「……姫、すみません。こちらは仕事が残っておりますので、失礼な対応になりますが――どうぞ、ごゆっくりしていってください」
これはあながち嘘ではなかった。
ローチ型を葬ったことで、幾分か戦力的な安定は訪れたが、この最前線を支えるというのは容易ではないのだ。
しかし、アルマはこれを叱責するでもなく、彼の真横に向かう。
「シナヴァリアさん、戻ってきて」
「……こちらで仕事がありますので」
「シナヴァリアさんがいないと駄目なんだよ! 善大王さんが頼んだシナヴァリアさんがいなきゃ……」
それを言われ、シナヴァリアは表情を僅かに変えた。
「私は善大王様の期待に応えられなかった。その私に、何ができると」
「そんなことないよ! あの時だって、シナヴァリアさん達が来てくれなかったら――」
「あの勝利は、姫のものですよ。我々ができたのは、ただその時間を稼ぐくらいのことでした」
「……頑固もここまでくると困った者ですね。首都ではバール暗殺の主犯は知られていない。戻れば済む話ではありませんか」
呆れたように、ダーインはそう言った。
「それで、誰がここを取り仕切る」
「私と、タグラム殿で十分でしょう」
「……であれば、ダーインが戻るべきだ。幸い、あなたはすねに傷を持ってはない。タグラム氏や私よりも適任では?」
「すねに傷のある男二人に、この最重要地点を任せろ……と? それに、ライトロード王が統治している以上、私の出番はありませんよ」
彼からすれば、これは望ましい状況だった。
ダーインはシナヴァリアのように、政治に精通した者ではあるが、それ以上に正統王家を重視する男なのだ。
自らが王とする相手が権力を掌握する状況を、悪いと思いはしないのだ。