光が抱く黒き渇望
――光の国、ライトロードにて……。
法王バールの死後、光の国の政は正統王家が引き受けていた。
それで全てが解決する――かと思われたが、そんなことはなかった。
それまでの教会の方針はそのままに、兵の運用などが多少は改善された、という程度である。
十分に大きな問題ではあったが、教会の動きは縮小し、彼らが手を引いているという様子は見られなかった。
さすがのダーインもこれには連絡を行ったが、王家が自身で判断していると言うことを聞き、アルマも同様に答えた時点で沈黙した。
肝心のアルマについても、ダーインに報告した通りのことでしかなく、手の出しようがなかった。
「なんでお父さん、こんなことするんだろ」
「……確認なさっては?」とインティ。
「あたしには教えてくれないの。前のにして、って言っても子供が口出しするなーって」
「教会が仕向けている……ということは」
「ううん、それはないと思うよ。あたしもよく大聖堂に行ってるけど、前みたいに悪く言ってたりしなかったから」
二人は困ったように、ため息をついた。
黒幕がいる限り、それを倒せば物事は解決する。
だが、その悪政が平常運転の末の結果であれば、是正することはできないのだ。
そもそも、代理であっても国の最高権力についた時点で、誰かがどうにかできるものではないのだ。
「この件について、シナヴァリア様はなんと?」
「ダーインさんは打つ手なし、って。シナヴァリアさんは……特になにもないって感じで」
「珍しいですね。あの人が悪政を見て何も思わないなんて」
アルマは愛想笑いを浮かべ、この話題を流した。
それもそのはずだ。彼女はシナヴァリアがそんな態度を取っている理由を知っているのだ。
「(バールさんを殺しちゃったから、国に関われないって思っちゃってるんだよね……シナヴァリアさん、責任感強いから)」
彼は国の今を帰る為に、諸悪の根源であるバールを殺した。
確かに、それで教会の力は弱まった。
だが、それで全てが解決するということはなく、政治面についてはほぼ横ばいのままである。
こうなると、彼のできたことは魔物の内通者を消せた、ということだけである。
その一手は必要なものではあったが、彼が主犯であると気付かれていない以上、戦場に戻るのは悪手だった。
当たり前だが、正統王家の人間は政治からは遠ざけられてきた。
飽くまでも象徴的な存在でしかなく、教会の支配下にあっても直接手を下すことがなかったことからも、それがよく分かる。
それ故に、彼はどこかで油断していたのだろう。
傀儡政権はそのまま継続され、文官達によって状況が是正されるものだと。
結果から言えば、王は自分の持つ権力の意味を理解し、独裁の体勢を取ってしまった。
なまじ、それが従来の教会のやり方と同じであり、民にとって負担の少ないものだった為に問題扱いされていないのが現状だ。
「……そういえば姫様、明日には国を発たれるんですよね」
「そうだね。バルバさんはどっか行っちゃだめって言う人じゃないし、自由に出られるの」
「ですが、その必要はありますか? 以前は教会の裏を調べる為に出る必要がありましたが」
「うん。首都以外の人達にも、あたしができることで励ましてあげたいなって」
インティは口許を緩め「さすがは姫様ですね」と言った。
それを素直に受け取り、はにかんだ笑みをアルマは見せる。