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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1192/1603

20f

 ――風の大山脈にて……。


「はっ、若い世代がどうにか頑張ってくれたみたいね」


 ライラはティアを見つめながら、そう呟いた。

 彼女の黒い翼は闇を失ったように、白のように明るい緑に変化しており、邪悪に暴れ回る状態からは解放されている。

 しかし、それは彼女が明確に意識を失った瞬間に解除され、ティアはただの少女に戻った。


 結構な速度で落下していくティアを受け止めるべく、柔らかな緑色の羽毛を飛ばそうとしたが、すぐに止める。


「余計なお世話、だね」


 一対の緑の線が伸び、ティアの落下は停止した。

 言うまでもなく、ガムラオルスが彼女を抱き留めたのだ。彼女の世界でそうしたのと同じように。


「ご苦労様、王子様」

「皮肉はやめてくれ」


 彼は返答をしつつ、着陸をした。

 その場所は、先ほどエルズを守った場所である。そこであれば、色々と都合がいいと思ったのだろう。


 立ったまま固まっていたエルズは髑髏面(・・・)を外し、露骨に嫌そうな顔をした。


「ティアは?」

「ここに」

「そんなのは見れば分かるのよ……起きるの?」


 ガムラオルスは頷いた。


「なら、いいけど……」

「ティアを任せられるか?」


 エルズは我の怒りも忘れ、驚く。


「どういうことよ」

「……俺は火の国に戻る」

「あの告白は、嘘だったの?」


 聞かれていたことを恥じるでもなく、彼は「嘘なんかついていない」と言った。


「ティアに必要なのは、エルズじゃない。今の(・・)あなたよ」


 まるで意趣(いしゅ)返しをするように、彼女は未来の彼に言われた言葉をぶつけた。

 しかし、その真意までは伝わらない。当たり前だ、エルズがどうしてここにいるのか、彼は知らないのだから。


「この里に、俺は必要ない」

「だから……そういう話じゃないでしょ!? ティアはあなたを――」

「この里に居ては、いつまで経っても戦争は終わらない。だから、俺は地上に戻って戦う。少しでも早く、この戦いを終わらせる為に」


 それを真面目な表情で言うガムラオルスを見て、エルズは怒りを通り越し、恐怖を覚えた。


「本気で、そんなことを言っているの? 本気で、ティアよりも世界が大事なんって言うの!? エルズが身を引くのに、あなたはそんな身勝手なことをするの!?」

「すまない」


 彼は言い訳をしなかった。ただ、謝罪した。


「せめて、行く理由くらいはいいなさい」

「この戦いが終わったら、俺は必ずここに戻ってくる。そして――ティアと結婚する」

「……は?」

「だから、危険な今を変えたい。ティアにはそう、伝えておいてくれ」


 とんでもない惚気(のろけ)話に、エルズは鼻で笑ってしまった。


「失恋した子に、そんなことを頼むの?」

「悪い」

「もう良いわ。なら、さっさと行きなさい。それで、さっさと戦いを終わらせてきて」


 ガムラオルスは黙ったまま頷き、眠ったままのティアの顔を見つめ、エルズに彼女の身を預けた。

 そして、翼を広げると、そのまま南の空に消えていった。


「まったく、無責任な話よね……もう、これで終わりにしようと思ったのに」


 エルズは泣きだした。

 もとより、失恋した時から彼女はこの山を去るつもりだった。

 ガムラオルスに後を任せ、自分は地上に向かうつもりだった。


 だが、彼に託された以上、責任を放棄して抜けることはできなかった。

 エルズは意識のないティアを抱きしめた後、彼女を木に寄りかからせ、二人で地面に座りこんだ。


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