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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1190/1603

18f

 ――風の大山脈。


「らぁあああああああああああああああああああ」


 黒い天使は叫び声を上げ、怒り狂うように翼を振るった。


「避けなさい! その子は私が――」


 ガムラオルスは何も答えず、自身の翼を展開し、一対で一本に向かった。

 天使のレベルに到達した本物の翼に、制限付きの仮初めの翼で対抗できるはずがなかった。


 しかし、またもや黒い翼の軌道は逸らされ、エルズもガムラオルスも直撃を避ける。

 ただ、激しい破壊の余波までは防ぎきれず、黒い衝撃波が彼の頬に無数の傷跡を刻んだ。


「一度ならず二度までも……まさか、あれはいつかの」


 ガムラオルスの翼は、明らかに変化している。

 以前は残光のように実体の乏しい質感だったが、今は僅かに粘性を帯び、波立つ表面には羽根の片鱗が窺えた。


「ティア、目を覚ませ」

「がぁああああああああああああああああああああ」


 返ってくるのは、叫びだけ。そこに、対話などありはしなかった。

 彼は拳を強く握り、彼女の顔を見つめる。


「馬鹿みたいに片意地を張った男が、憎いのか」


 翼は振り上げられ、攻撃の準備が整えられていく。


「そうだよな……憎いよな。なら、その怒りは俺にぶつけろ。お前の怒りも、お前の嘆きも、全てまとめて、俺が受け止める」


 そう言うと、彼は翼を広げ、遙か高みにいるティアへと迫った。


「風神! そこの娘は任せた」

「……若造が、私を呼び捨て? でもまぁ、今は承知したわ!」


 迫り来るガムラオルスを仕留めるべく、ティアの翼は大質量の突進により、途轍もない風を生み出す。

 速度は明確に落ちるが、彼はその分だけ出力を上げ、彼女に歩み寄る速度を高く仕上げた。


 そして、本命の黒翼が眼前へと到達するが、彼は素早く切り返し、紙一重に避け――そのまま速度をさらにあげた。


「俺のあいつのところまで……連れて行ってくれ! あいつの速さに! あいつの高さに!!」


 真横を走る黒翼の羽根が左手を掠り、増していく速度により、傷口から途轍もない血が吹き出していく。

 黒の線と平行に走るは、明るい緑と細い赤い線。


 ティアは圧倒的な優位でありながらも、空に逃れようとした。彼の届き得ない、遙かなる空へ。

 だが、彼は止まらない。彼は肉体の無理を一切考慮せず、遠ざかる彼女の速さに、彼女の高さに追いつこうとした。


 瞬間、途轍もない加速により狭まった視野の中――ティアの瞳が鮮明に見えた。

 遠くからではしっかりと見えなかったそれは、涙に濡れていた。


「ティ……ア」


 怒りや憎しみなどではない。そこにあったのは、嘆きと悔やみだった。


 彼は握った拳をほどき、目を閉じた。

 真っ暗闇の世界であっても、彼の飛行感覚は違えない。ただ真っ直ぐに、ティアのもとへと向かっていく。


「(ティア……今すぐにでも、お前のところへ)」


 強い願いが結晶となった瞬間、一面黒の世界は虹色の世界となった。

 目を閉じていたガムラオルスは驚き、目を開ける。やはり、そこは知覚していた世界そのものだった。


「ここは……」


 ティアの居ない虹色の世界であったが、彼は迷うこともなく、高速で進み続けた。

 その先にティアが居ると、確信を持っていたのだ。


 そして、有る地点に到着した時点で、周囲とは色の違う、淡い扉のような空間が見えてくる。

 彼は恐れることもなく、その空間に飛び込んだ。


 途端に、世界はまた姿を変える。今度は、どこか見覚えのある風景だった。


「……あの時の、あの場所か」


 幼き日、ティアと共に過ごした場所。彼女がよく座った切り株が目印の、特別な場所。

 だが、それは次第に壊れていく。世界は認識のしようのない無に呑まれていき、思い出の景色も壊れていった。

「くそ……ティア、どこだ!」


 強く意識した瞬間、ようやく彼女を見つける。そこには、ティアだけではなく、エルズも立っていた。


「ティア!」


 叫ぶが、彼女に声は届かない。


「くそ……くそがああああああああああああ」


 彼女の足下が虚無に呑まれていき、伸ばされたエルズの手も、届きはしなかった。


 無に落ち、反転した世界に喰われるように、彼女の色もまた反転色に変わる。

 ただ一人残されたエルズはそれを追おうとしたが、そうしたところで意味がないのは明白だった。


「(ティアを救えるのは……俺だけか)」


 彼は覚悟を決めた。そして……。


「ここは俺に任せろ!」


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