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アカリは大陸に辿りつき次第、シナヴァリアと合流する。そこには先ほどの聖堂騎士の姿はなかった。
「先輩ぃ……暗部出身で友達のいない私を一人にしないでくださいよぉ」
「もう私のお守りは必要はないと考えていたが」
「ま、いいです。私はいい女だから許してあげます! それよりー善大王って人は何なんですか?」
「少し前の事件で新たに選ばれた聖堂騎士だ」
「騎士団なら分かりますけど、聖堂騎士なんかと縁があるんですか?」
まるで友達はいない、と言われているかのような言い回しだが、シナヴァリアは気にしない。
「多少はな……他の連中よりかは話が合うとは思っている」
アカリは意外に思っていた。
シナヴァリアは飽くまでも中立的で、かつ上下関係を遵守して動いている。他人と関わる時も基本的には他人として付き合っている節があった。
ただ、こんな言い回しをしている時点でそれとは違うことは明白。
事実、シナヴァリアは善大王を友人として認識していた。善意や正義、信仰に傾倒している者達が多い中、彼はシナヴァリアと同じで一般的な男だったのだ。
「私、負けませんから! 活躍したら振り向いてくださいね!」
「あまり出すぎなことをしないように。魔物との接触はまずないと思うが」
そこからはノーブルの指示によって編成が伝えられ、アカリは後方についた。
兵士は五百人、騎士団が大半を占めている。防御の役割を負う部隊を騎士団長が担当し、攻撃を担当する部隊をシナヴァリアが指揮する。
ノーブルは中央で全体指揮を行い、聖堂騎士は善大王の方針に従って各自自由に動くという流れ。
例外として、術者は後方に陣取り、善大王、ノーブルの優先度で指揮を握られる。
光の国の精鋭布陣がこの方式であって、実際に使われることはほとんどない。もっといえば、この布陣で戦闘が行われたことすらなかった。
その理由はいくつかある。
『前方で《星霊》を捕捉』
『前衛で殲滅しろ』
命令が通信術式で届き、何が起きているのかをアカリは悟った。
後方の術者部隊に出番が回ってくることはなく、あっさりと障害は取り除かれた。
所謂、このような処理は行われる。数と力の暴力とばかりに──馬車で子供を轢き殺すかのように、戦いの次元にさえ踏み込まない。
アカリは後方内で動き、善大王のいる場所まで向かった。
本来ならば馬や馬車に乗っていてもおかしくはないが、この未開の地では全員が徒歩で移動する。万が一に魔物と接触した為と理由はあるが、その危惧が意味をなしたことは一度もない。
「善大王様」
「やぁ、調子はどうだい?」
「万全です」
「うん、それなら良かった。封印は長引くから、それまで僕を守ってほしい。お願いできるかな」
「はいっ!」
数日歩き、村を発見する──とはいっても、それはアカリ主観の話であり、部隊自体はこの存在を初めから知っていた。
「ここは?」
「不思議な村だよ。魔物の襲撃を受けない結界を持っている、らしいね。ただ、その情報に関しては完全に口を閉じているみたいで」
村の近くにテントなどを張り、指揮官クラスは村の中で家を借りていた。
アカリは年齢と性別を汲み取られてか、村の家を借りることとなった。
村の中でうろちょろしていたアカリは一軒の家に入り、村人に問いを投げかけていた。
「魔物ってぇ、実際にいるんですかぁ?」
善大王との会話以外では、いつもどおりのおちゃらけた口調で話す。
「魔物はいます」
「ほんとうですかぁ? それで、どんな姿をしているんですか?」
「姿は多種多様ですよ。伝承によれば、悪魔の姿や竜の姿、虫の姿など、人が恐れる姿をしているといいます」
ふぅーん、と興味のなさそうな反応をしながらも、アカリは情報収集を軽く済ませた。
すぐに出て行こうとした時、棚に置かれていた無骨な腕輪が目に入り、人を魅せる魔力のようなものを感じて近づいていく。
「これ、なんですか?」アカリは少し真面目な声色にした。
「私も知りません。落ちているのを見つけたので、置いていますが」
「じゃあ、くれませんか? なんか、この子が私を呼んでいる気がするんですよね」
村人はしばらく考えた後「いいですよ」と言った。
腕輪を手に取ると、アカリは自分の腕にはめてみた。
するとどういうことか、体中に力が満ち溢れ、無限の如きソウルの昂りを感じた。
「これ……すごい効果ですね」
「そうなのですか? 私はなにもありませんでしたが」
この道具が使い手を選ぶのだと、アカリは察した。呼んでいる気がするというのも、完全に嘘ではなく、心の奥底からこの腕輪を求めていたのだ。
家から出て行った途端、品のある壮年の男性がアカリの前に現れた。




