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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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15j

 エルズは仮面を外した。瞬間、世界は再び、冒険者ギルドの酒場に姿を変える。


 一条(ひとすじ)の涙が、何か(・・)を見たエルズの頬を伝った。


「……そうだったんだ」


 今にも泣き崩れようとしたエルズだったが、彼女が出した声は笑い声だった。


「あは……あはは! ……見つけたよ、ティア。見つけられたよ、本当のあなたを」


 瞬間、彼女は酒場の扉を叩き開け、外に出た。


 誰も居ない町を、彼女は一人、駆けていく。

 飛ぶことができると分かっても、彼女は走った。本当のティアが居る場所に、目星がついていたからだ。


 栄えた()を抜けると、見覚えのある森が見えてくる。

 ほどほどに整備された森を進む度に、その光景は現実のそれに近づいていき――ある地点だけは、逆に今とは違うものに変わった。


「……ここだけは、昔のままなんだね」


 息を切らせながら、エルズはそう言った。

 そして、それを聞いた人物はびくんと体を震わせる。


「あなたは、誰?」

「ガムラオルス――(くん)じゃない人」


 それを聞いた緑色の髪をした少女は振り返ることもなく、丸太に座ったまま露骨に落胆した。


「誰もいない。誰も来ない……ティアのお気に入りの場所、だよね」

「なんで、知っているの?」

「来る人は……ガムラオルス君。ティアは、ずっと……ずーっと待ってたけど、ガムラオルス君は来なかった」

「来ないなんて決まってないよ!」


 振り返った瞬間、エルズは親友の幼い頃の顔を知ることになった。


「あんまり変わってない……? ううん、少しだけ丸っこいかも」

「何のこと!? 私は……あなた、誰?」


 そこでティアも、ようやく興味を抱いた。

 それもそのはずだ。この時代(・・・・)のティアは異国の人を見たことがなかったのだ。


「闇の国の人。そして――」

 言いかけ、言葉を切る。「この里の戦士達の、先生かな」


 エルズは嘘をつかなかった。


「お父さんが呼んだの!? すごい!」

「……ガムラオルス君に、呼ばれたんだよ」


 それを聞いて、ティアは黙り込んだ。ただ、それは許容しきれない情報を突っ込まれたようなもので――所謂、唖然としてしまったのだ。


「なんで、ガムランが? なんで? なんで?」

「……ガムラオルス君が、ティアのことを好きになったから――好きだって想っていた(・・)からだよ」


 それを聞いて、ティアは頬を赤くし、純粋に照れてしまった。現在のように惚気(のろけ)るのではなく。


「ガムランって、私のこと……好きで居てくれたんだ」

「うん……だから、ずっと後悔していたんだと思うよ」


 虹の世界での経験(・・)により、エルズは未来のガムラオルスの言動の意図に気付いた。


『ああ、知っている……知っているさ』


 未来の彼がそう告げた時の表情、それは取り返しのつかない失敗に気付いた――後悔を含んだものだった。


「(きっと、ティアとガムラオルスは、互いの想いに気付かないまま別れちゃったんだ。だったら、エルズがその未来を変える。今なら、変えられる……!)」


 エルズは、ティアの今まで過ごしてきた人生を、あの短時間の間に経験していた。

 だからこそ、ここがどの時代に当たる場所なのかも分かっていた。

 だからこそ、彼女の本心がどこにあるのかも分かっていた。


「だから、進もう。この世界は、悲しいことだけじゃないから」


 その言葉を告げた瞬間、ティアの笑みは一変し、無表情になって黙り込んだ。


「ティア?」

「進むって、どこに?」

「……現実。こんな世界じゃなくて、本当の世界で、ガムラオルス君のところに行こう」

「やだ! ……やっぱり、あなたの言うことは信じられない!」


 そこで、エルズは知覚した。

 今、本当のティアは今現在のティアの記憶と繋がったのだと。

 つい先ほど、自分も体験したことだけに、彼女はそれを理解できた。


 だが、問題は重かった。エルズの場合、答えを得た上で、自分の中に残る恐怖心と向かい合えた。

 だが、ティアは得体も知れない相手から聞いた情報、ただそれだけしか持っていないのだ。


「みんな待ってるよ。ガムラオルス君も」

「知らない! 知らない!!」


 彼女が否定するほどに、世界は暗くなっていく。

 その人間の本質に触れるというのは、こうした危険を背に置く必要があった。

 ここにいるティアは、この世界そのものなのだ。それが壊れてしまえば、この世界は維持できない。


 だが、それが分かっていても、エルズには進む道がなかった。

 知ったティアの人生において、今の方法以外に救いを与える手段はなかった。


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