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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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 エルズは笑い、記憶を戻した。

 決して幻などではない、少し前の自分が肉体に戻ってくる。

 ただ、完全に同じなわけではない。ここには、一瞬前の彼女もいた。


「エルズはティアのこと、何も知らなかった」

「(知らなかったとしても、エルズはティアが大好きだった)」

「ただティアに好きになってもらいたいから、勝手に……自分勝手に、相手の望まないことをしてきた」

「(好きになってもらいたいって思うのが、そんなにおかしい?)」

「エルズは……」

「(エルズはティアを考えてあげられていなかった。ただ、エルズの中のティアに恋して、それに好きになってもらいたかっただけ)」

「そう、エルズの勝手な妄想」

「(だから、今度こそは本当のティアと向かい合って、好きになってもらうの)」

「そんなことしたって、どうせまた……」

「(エルズはなんで、ティアを好きになったんだっけ)」


 そこで、思考が止まった。


「うん、きっと……ティアがエルズを助けてくれた時からだ。エルズはその恩返しをする為に、ティアに尽くしてきた」

「(でも、ティアに恩返しなんてできてなかった。ただ、エルズが勝手にそうだと思ってただけ)」

「……ううん、違う。エルズがティアを助けたいと思ったのは、助けられた負い目があったからじゃない……エルズはただ、ティアのことが大好きだったんだ」


 エルズの頭の中は、確かに一つの意見にまとまった。


「エルズはただ、ティアが大好きだから助けるんだ! ティアがどう思っていたとしても、変わらない……だって、ティアの為に頑張ってると、エルズも頑張れるから!!」


 彼女は答えを見つけた。

 今までの行動が全て、自己満足だったという事実を否定することなく、彼女は自分の愛を本物にしたのだ。

 ティアに想いが届かずとも、恋している喜びが常に彼女を幸せにしていたこともまた、嘘偽りのない事実なのだ。


 彼女の恐怖は引いていった。迷いは、消えた。

 今、エルズは見えない誰かの不確定要素などではなく、紛れもない自分自身の情報を用いて、判断したのだ。

 だからこそ、見える世界がどうであれ、関係はなかった。


 進むその先が自分の望むものである限り、そこが痛みの庭であっても、人は歩くことができる。


「エルズはもう、嘘をついたりしない」


 覚悟を決めた瞬間、彼女の髑髏面はひび割れ、透明な仮面に姿を変えた。


「これって……」


 仮面に残っているのは、カチューシャのような天使の翼の飾りだけ。自分の顔を隠すことは、もうできなかった。


「ティア、本当のあなたを、絶対に見つけてみせるから」


 透明な面を被った瞬間、彼女の意識は急激に遠退いた。

 頭を棍棒で殴りつけられるような、強烈な意識のブレだったが、すぐにそれは静まっていく。

 違和感の消失に伴い、彼女の見る世界は大きく変わった。今度はイメージなどではなく、実際に変化している。


「辺り一面の……虹色」


 その世界は、《神獣》の精神世界に近かった。

 構造物はなにもなく、天も地もなく、全てが虹色の世界だった。


『一緒に、遊ぼう』


 その声は、少年のものだった。それも、下手をすれば幼児とも言えるような年齢の。


「……これって」


 彼女の眼前には、二人の子供が立っていた。

 いや、それだけではない。確かな、風の大山脈の風景が投影されていた。



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