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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1181/1603

9j

 ――緑色の空間にて……。


「さて、ここからはあなたに任せるとするわ」

「任せて。エルズがどうにかするまでは……」

「ええ、あっちのティアは私に任せなさい」


 それを聞き、エルズは笑みを浮かべた。

 瞬間、世界は大きく変わり――見覚えのある景色となった。


「風の……大山脈? 外に、出たの?」


 その問いは、明らかに誰かに向けたものだった。

 しかし、返答はない。ライラは完全に、この世界を離れてしまったのだ。


「ここからは、エルズの仕事ね」


 その世界を歩きながら、エルズは違和感を覚えた。

 そこは紛れもなく、現実世界のそれと同じだったのだ。

 精神世界はおおよそ、夢の世界のような様相を呈する。非凡な要素が満ちていることが往々にあるのだ。

 ただ、この世界はあまりにも普通だった。そして、あまりに現実的だった。


「こんな容量、人の中に入りきらないはずだけど……」


 巫女という特異な存在故の変化か、と達観しつつ、エルズは山道を歩き出す。

 ゆっくりと歩き、辺りを確認することで、彼女は確信を得た。


「……うん、やっぱり風の大山脈だ」


 走って移動することもできるが、彼女は世界のイメージを明確に掴むことを優先した。

 結果として、全く同じ世界が入っていることが分かった。


「なら、少し急いでもいいわね」


 瞬間、彼女は遙か先に移動した。

 精神世界にいる限り、彼女は瞬間移動のようなこともできる。当然だが、この世界には明確な時間や空間の概念はないのだ。


 そうして加速を繰り返し、山を登っていく。目的地は、里のある地点だった。

 連続ワープを行う最中も、適度に風景を確認し、整合性を合わせていこうとした――が。


「……家?」


 不意に、見覚えのないものが目に入った。

 疑問を抱きはしたが、彼女は第一目的地を最優先とし、先へと向かった。


 しかし、辿りついたのは里ではなかった。


「……町? いや、国?」


 彼女の眼前には、光の国に似た町並みが広がっていた。

 区画が整理され、綺麗に並ぶ家々。芸術的というより、合理的な町だった。

 そして、その遙か先に見えるのは、巨大な城。だが、こちらは光の国のものではなく――どこの国のものでもない、初めて見る城だった。


「(お城……? あれが、ティアの望んだもの?)」


 精神世界は現実の継ぎ接ぎ(コラージュ)になることが多い。

 現実で見たものが直接反映されるわけではなく、無数のイメージの組み合わせ、実際にはどこにもないようなものになる。

 夢の奇抜なデザイン、というとイメージは掴めるだろうか。


 しかし、この城は比較的現実的なデザインで――強いて言えば、光の国のそれに近いのだ。


「なんで、この山に光の国の影響が……」


 瞬間、彼女は思い出した。

 善大王が風の大山脈に(おもむ)き、一族を解放しようとした、ということを。

 実際はアイとして生きていた時代に聞いた情報なのだが、彼女はしっかり記憶していた。


「……これが、ティアがそうなって欲しいと思っていた世界、なのかもしれないわね」


 人の心の中を見たところで、エルズは心を揺らされたりはしない。

 だが、親友のそれならば話は別だ。ここにあるのは、起こりえた――しかし、そうならなかった世界なのだ。


 もし、善大王が風の大山脈を領土に加えていれば、こうなっていたかもしれない。

 そうなっていれば、ティアは冒険者にならずとも――自分と出会わずとも、世界に出られたのだろう、と。


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