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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1179/1603

7f

 ――風の大山脈、山道にて……。


「……ここは」


 目を覚ましたガムラオルスは、自分の傷が思った以上に回復していることに気付いた。

 憎悪に取り憑かれたティアにラッシュを叩き込まれた時、確かに彼の体は滅茶苦茶になり、とても《魔技》では回復できない領域に陥っていた。


 身を起こそうとした時、彼は激痛に襲われ、そのまま仰向けに倒れる。


「最低限度は……か」


 彼は素早く回復用の《魔技》を発動させ、応急処置に応急処置を重ねた。

 今発動したのは、主に鎮痛用のもの。神経や精神を弄くり、正常な痛みの伝達を阻害するというものだ。


 痛みが引くまでにも時間が掛かる。彼は倒れたまま、通信術式を開いた。


「俺だ。そっちはどうなった」

『全員、捕縛されました』


 予期せぬ答えに、彼は沈黙した。


「失敗、か」


 隊員は、質問をしなかった。彼の言葉を聞いた時点で、どういう顛末だったのかが分かったのだろう。


『将軍、族長と思われる男が話があると』

「わかった」


 そこで接続対象が切り替えられた。入れ替わるように聞こえてきたのは、聞き覚えのある族長のものだった。。


『ガムラオルス、戻るというのであれば、今だ』

「……馬鹿言え」

『ティアはお前を、許している』

「知っている。それを聞いた上で、俺はあいつと戦った。そして、無様にもあいつに敗れた。あいつに恐怖した」


 薄暗い翼を放つ少女の姿を見て、彼は真に恐怖した。

 幾度も死に追いやられるような場面はあったが、あの時に覚えた感情は、それまでのものとは性質が違っていた


 強いて言えば、どうやっても避け得ない死。

 自分の命が終わるという感覚が、敵として眼前に現れたような感覚だったのだ。

 そこに言葉はなく、そこに感情はない。触れることもできず、無慈悲に理不尽に終わりをもたらす、そういうった恐怖だった。


 彼は自虐気味に言っていたが、通信相手に見えない手や足はガクガクと震えている。


『ならば、戻れ。あの子は、それを望んでいる』

「俺はあいつから逃げた男だ。一度逃げた人間は、勝たない限り一生、逃げ続けなければならない……」

『巫女に無力感を感じることは、恥じることではない。いつの時代も、あの眩しい少女と関わった者達は、みな暗い影を背負った。シナヴァリアがそうだったように――私が、そうであったように』


 それを聞き、彼は黙り込んだ。


 誰もが、それを経験していたのだ。

 だからこそ、シナヴァリアは里を出た。

 だからこそ、ウィンダートは去りゆく若人達を止めることができなかった。

 その痛みを知ればこそ、強く言うことができなかったのだ。


「俺には、関係のないことだ」


 彼はそう言うと、通信を切断した。

 本音を隊員に知られた時点で、彼は覚悟していたのだ。


 結局、また逃げることになると。

 火の国に逃げ帰り、そこに居場所がなければスケープを連れて逃げ、またどこかに逃げる。

 何度も繰り返し続け、何度も自身を覆う影を否定しようとしながらも、目を覆うことでしかそれができなかった。

 己の無力を知ることが、彼にとっては最も()えがたいことだった。


 脱力し、四肢を投げ出したガムラオルスは、浅い眠りに誘われた。

 このまま、全ての責任から逃げ出したくなったのだ。


 そんな時、聞き覚えのある音が頭に響いた。

 無視をしようとしても、鳴り止まないその音を聞き、彼は煩わしく、そして当たり散らすように応答した。


「なんだ!」

『俺だバカ息子が』



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