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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1174/1603

2f

「好きだと? くだらない」

「……」


 ティアは何も答えず、ガムラオルスへと急接近した。

 その驚異的スピード、完全なまでの飛行の掌握具合を見て、彼は恐れるよりも先に嫉妬した。


「死ね!!」

「……」


 彼女はやはり、何も答えない。

 答えず、血にまみれた腕を用いて、突きを放った。


 ガムラオルスの翼がこれを迎撃しようとするが、ティアは瞬時に着地し、両翼をもってこれを打ち返した。


「こい……つ」


 肋骨を穿ち、そのまま彼の中に少女の腕が突き刺さった。

 体内で流血が混ざり合うが、やはりティアは黙ったままだ。


「(迷いがない……そして、翼のことをよく理解している)」


 彼の頭は冴えていた。

 ぐりぐりと腕が突っ込まれているにもかかわらず――いや、それ故に落ち着いているのだろうか。

 確かに、ティアは翼での防御を行おうとした時、着実に着地した。

 もし、片翼で打ち返そうとすれば、バランスを崩して地面に叩きつけられていたことだろう。


 翼を使い慣れたガムラオルスであれば、瞬時の切り返しでこれを行えるが、彼女はできないと断じて安全策を打った。

 ただ、これは臆病というよりも、理解した上の懸命な手である。


 飛行であればミスは許されるが、この防御にミスは許されないのだ。

 彼女は《星の秘術》の発動で状況を大きく変えたものの、傷の回復は未だ完全ではない。


 ティアは黙っていたが、その理由は心情的な面だけではなく、肉体的なものもあった。


「(白い……眩しい……)」


 ここに至るまで、彼女はあまりに出血しすぎた。

 回復が若干間に合っていなかったこともあるが、ティアの症状は貧血のそれに近い。それも、意識が飛ぶ寸前の重度なもの――つまるところ、失血死寸前。


 少し動くだけで動悸が起き、視界は常にめまいをおこしているかのように、白けていた。


「(辛い……苦しい……)」


 彼女がショック死に陥ることはないのだが、精神的にはかなりショックを受けていた。

 ガムラオルスは何を言っても受け入れようとはせず、どれだけ愛情を向けても、それに応えてくれないことに。

 ただ、それでも彼女は諦めようとはしない。彼女は諦めが悪いのだ。


「っ……放せ!」

「放さない」


 彼は舌打ちをすると、翼を噴かせ、空へと逃れた。腕は引き抜けるが、傷口からは多量の血が垂れ流される。

 彼女から距離を取ったこともあり、彼は急いで《魔技》を発動させ、応急処置を図った。


 当たり前だが、これが普通の戦い。ティアのように自動回復の行えないものからすれば、手傷というのはそれだけで戦局を大きく左右するのだ。

 だからこそ、彼は回復の《魔技》はきっちりと習得していた。回復のレベルでいえば、程度の低いものだが、それでもないよりはマシだった。


 あふれ出ていた血は垂れるような量に減り、どうにか意識を失うことは防げたが、これで攻勢に出られるわけではない。

 彼はどんどん高度を上げていき、彼女から逃れようとした。


 そう、逃れようとしたのだ。


「(結局、俺はなにも変わっていないのか……? 俺はいつまでたっても、一人じゃ何もできないのか……?)」


 否定の言葉を叫ぼうとするが、彼は力なく項垂(うなだ)れ、言葉を留めた。


「何が違うもんか……」


 気付いた時、下方からは凄まじい勢いでティアが迫ってくる様が目に映る。

 彼は驚き、空へと逃れようとする。翼というアドバンテージを失った今、ティアに勝てる見込みなどなかった。

 恥もなく、もはや逃げるしかなかったのだ。


 だが、逃げに徹してもなお、ティアの速度の方が勝っていた。


「……絶対に、逃がさない」


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