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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1172/1603

19r

「(こいつは……どうして、どうしてこんな強く在れるんだ)」


 無意識に体を動かしながらも、彼は俯瞰(ふかん)するような視点からそう思っていた。

 目の前の少女――幼馴染は窮地に立たされながらも、その顔から笑みを消していなかった。


 どれだけ傷つこうとも、反撃さえできずとも、絶望の色を見せはしなかった。


 それが、彼にとっては許せなかった。


「(どうして、こいつは何もかもが上手くいくんだ。どうして、こいつは悩むことを知らないんだ! どうして、こいつは――ッ!!)」


 鋭い怒りが全身を巡り、彼の攻めは勢いを増していく。

 気に入らない現実を叩き壊し、自分にとって優しい世界を作る為に――子供じみた高みを得る為に。


 彼からすれば、ティアは憎しみの対象でしかなかった。

 自分が多くの挫折を味わい、多くの苦悩を抱える中、それらとは無縁のように生きる彼女が気にくわなかった。

 何の努力もなく、全てがご都合主義のように上手くいく彼女が、自分の望んだ理想であるからこそ――それを存在させるわけにはいかなかった。


 自分を今までを嘘にしたくない。間違えた人生を歩んできたと感じたなくない。

 這いずりながら、先往く者の足首を掴む亡者のように、彼は自身の理想を強く否定していた。


 それはただの理想でしかなく、実像がないからこそ手に入らなかったとする為に。

 もし本当にあるのであれば、それに届かなかった自分が如何に愚図(ぐず)であったかを自覚せざるを得ないのだ。


 光一つも見えない闇の中に彼はいた。

 そして、目の前には姿さえ覆い尽くすような輝きが満ちている。


 見ることさえも憚られるような、眩しすぎる光。

 それこそが、自分を闇たらしめている、とさえ彼は感じていた。

 自身の人生を覆う影を取り払うように、彼は黒い翼を振るい、光を黒く塗りつぶそうとする。


「間に合わなっ――」


 ティアは両手で防ぐが、親指だけを残し、手が食い散らされた。

 止血は瞬時に行われるが、修復はまだ行われていない。

 しかし、ガムラオルスは止まらない。彼の翼は弱った獲物の息の根を止めるように、追撃を放った。


 ティアは莫大な量の《魔導式》をちらと見やり、これまで守り通していた足を振るう。

 高エネルギーと蹴りの運動エネルギーが衝突し、轟音が鳴り響く――が、やはりというべきか足りなかった。


 彼女の右足首は()ね飛ばされ、彼女自身もはじき飛ばされる。


 利き足の明確な欠損。先の例から分かる通り、こうなるとしばらくは万全の移動は行えない。

 痛みを(こら)えて歩いたところで、回避の足しにはならないだろう。


 この時点で、勝負は決した。

 ガムラオルスは獣のような呻きを吐きながら、彼女に迫っていく。

 その歩みは自身の足で、まるで相手にできないことを見せつけ、絶望感を与えようと――いや、羨望や嫉妬を引き出そうとしているようにも見えた。


「あと……少し……」


 ティアは痛みに震えるが、《魔導式》を刻んでいく。

 最後の瞬間まで、彼女は諦めるつもりはないようだ。


 そんな抵抗が気に障ったのか、彼の翼は粘りけを得たように、ぬるりと近づいてティアの太腿(ふともも)に突き刺さった。


「っっっ……ァ!!」


 鈍い痛みがゆっくりと、しかし確実に速度や鋭さを増しながら彼女の全身を走る。

 絶叫するほどの痛みを覚えながらも、彼女の咽頭(いんとう)は嘔吐でもするような挙動で、声のない叫びをあげるだけだった。


 苦しみに歪む顔を見て、ガムラオルスもまた薄ら笑いを浮かべた。


「これで……俺は、解放される……過去の、影から」


 そう言い、射程内に収めた彼は一対の翼を振り上げ、少女を終わらせようとした。


「……い上がれ……」

「……?」

「舞い上がれっ! 願いの――翼ッ!!」


 《魔導式》が一斉に輝きだし、ガムラオルスはことの重大さに気付いた。


「《秘術》……ッ」


 スタンレーとの戦いで幾度も見たそれを、彼は意識してなかった。

 怒りに囚われ、普段の観察能力さえ残っていなかったのだ。


 だが、過ちは過ちとばかりに、彼はそのまま押し切ろうとした。


「《星願ロストスターディザイア》!!」


 凄まじい閃光が放たれ、彼の黒い翼は何かに遮られた。


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