18r
彼の攻撃はティアを確実に捉えていく。
傷つける度に、彼女のどこかは治癒し、またそこを傷つけるという具合だ。
だが、この治癒は完全なものではない。
とりあえずくっつくといった程度で、二度目の破壊を受けるとしばらく元には戻らなくなるのだ。
ティアはどうにか足を守ろうと立ち回るが、指、手、肩、と上半身の機能が次々と停止させられていく。
そうして時間を稼いでも、先ほどみせた脅威の回復力にはならなかった。
言うまでもないが、聖域内での戦いなどそうそうあることではない。
この短期間に接続、解除、そして接続を繰り返すこと自体が稀少な例なのだ。
通常であれば、決着がつくまでこれが解除されることはなく、また決着がついたと判断されれば時間が用意できる。
気を落ち着かせ、集中状態を作ることができれば、ほどなく復帰することはできるだろう。
だが、今はそれができる状態ではない。
攻撃されることも、痛みが襲うこともそうだが、彼女にとってはガムラオルスが暴れていることが最大の問題だった。
「私の、せいなの? 私があんなことしたから、ガムランは怒っちゃったの……?」
卑劣な手を使った、という自覚は彼女にあった。
そして、その結果としてガムラオルスはは彼でなくなってしまったかのように暴れ、怒り狂っている。
自責の念が自らを蝕み、罪悪感から全力を出し切れない、それが彼女の能力が制限されている理由だった。
「でも、私はガムランと一緒に居たかったんだよ! また、昔みたいにって」
声は届かない。彼は攻撃を続け、もはや防御もできないティアは回避を選ぶしかなかった。
避けても軌道が変わり、確実に追撃を行ってくる。
彼女ほどの力があっても、この攻撃を無傷で切り抜けることはできなかった。
「(駄目だ……私じゃ、ガムランを説得なんてできない。私なんかじゃ、何も――)」
らしくもないネガティブな感情が吹き出そうとした瞬間、彼女は大きく息を吸い込んだ。
「ううん、こんな風に考えるのは良くないよね。ガムランと分かり合うなら、やっぱりこれしかない……よねっ!」
彼女は吹っ切れた。
痛みに怯えるでも、自分を責めるでもなく、再び彼と語り合う道を選択した。
そして、その方法は口でのやり取りなどではない。彼女が得意とし、そうするしかない――戦いの中での対話だった。
「ガムラン! 勝負だっ!」
意気揚々と構えを取ったティアだが、決して直接対決をするつもりはなかった。
彼女ほどの使い手が、現状での力量差を測れないはずがない。
ただ、覚悟の変化によって、ティアの動きは格段に良くなった。
攻撃をどうにか躱す一方で、攻撃の位置を誘導し、着実な傷の修復に着手したのだ。
回避に必要な、という部分に重点を起き、腕へのダメージなどは軽視し始める。
そしてなによりは、《魔導式》の展開を開始したのだ。
知っての通り、《魔導式》は痛みなどに弱く、集中が途切れた場合には崩壊してしまう。
故に、彼女は術を控えていたのだが、堪えきるという意識を強く持った為にこの限りではなくなった。
怖い、痛いという感情を上書きし、当たることを当然としたのだ。
言うまでもなく、これらは決して収まることはない。ただ、覚悟はできる。
攻撃を浴びせられる瞬間、彼女はその維持を強く意識し、破壊を防いでいた。
全ては、逆転を狙う為。この土壇場で、彼の予想を遙かに越えた高みに至り、その上で対話する為。