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運ばれてきたバナナパフェをおいしそうに食べるアカリを見て、シナヴァリアは呟いた。
「何かあったのか?」
「ふぐ……何かって、もっと具体的に言ってくださいよぉ」
「お前の変容は目に余るものがある」
「恋する女の子はみんなこんなものですよ? 先輩のせいですから」
「その挑発もあまり良く思えないな」
シナヴァリアはアカリが冗談で好きと口にしていると分かっていた。
「先輩にはお見通しですかー、いやいや残念っ! ま、嫌いじゃないですよ? ちょっと残念だったりします?」
「……本題を言え。まさか、節約の為に私を利用したわけではないだろう」
「そうですねー強いていえば、切ない乙女心の発散場所に利用されているってところですかね。代理A役です」
「それで、誰の代理なんだ?」
「えっ、気になっちゃいます? 妬いちゃってます?」
面倒くさそうな顔をしながらも、シナヴァリアは再度問う。
「それで、誰なんだ? 軍関係者ならば私が口利きをしてもかまわないが」
「えーっ! 恥ずかしいですぅ……って、まぁ軍関係者、っぽい人ですけど」
大きく深呼吸した後、アカリは言い放つ。「先輩ですっ!」
「分かった。お前に聞こうとした私が馬鹿だった」
冷め始めていたコーヒーを一気に飲み干すと、シナヴァリアは席を立った。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ! せっ、せっかち!?」
「結論、お前に異常はない。馬鹿をやっていられるならば心配の必要もない」
「……別に、平気じゃないですよ」
その声だけは、変わる前のアカリと同じだった。
席を立ったまま、シナヴァリアは静止し、言葉を待つ。
「私がその人に恋をしたから、愛してほしいと思ったから、耐えられているだけですよ。その人の為に頑張りたい、その人の為に頑張っているから仕方がない、って」
「まさか──お前」
「叶わない恋かもって、なんとなく分かっているんですよ? それでも、私は……」
アカリは席を立つと、黙ったままシナヴァリアに抱きついた。
「先輩、好きです」
「……」
「大好きです」
「…………」
「なんて、こんな風に言えたらいいんですけどね。私、臆病です」
アカリが善大王を好いている、そう考えることは容易だった。
シナヴァリアはアカリを払うと、懐から銀貨一枚を取り出し、机の上に置いた。
「私は仕事に戻る」
「あっ、お疲れ様です!」
茶化したような敬礼をし、アカリはシナヴァリアを見送った。
急激に視界がブレはじめ、アカリは脇に置いていた飴を口に突っ込む。
「(やっぱり、まだ駄目みたい)」
シナヴァリアと話している間は平静を装えたが、一人になった途端、彼女の脳内には声や映像が乱雑に再生されはじめる。




