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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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16f

「馬鹿言え……こんなところで、俺が負けるか――負けられるかッ!」


 彼は瞬時に出力を高め、ティアに迫った。

 翼のもたらす超推力は、なにも飛行に限ったものではない。直線運動時の加速にも適しているのだ。


「俺の前から消えろッ!!」

「消えないっ!」


 ティアは蹴りのモーションに移行し――剣を叩き落とした。


「っく……!」

「もう、ガムランに背中を向けたりしないから!」


 今の反撃は、神器の仕様を完全に把握していなければできないような、僅かなズレもない最適のタイミングに撃ち出されている。

 先ほどの攻防で、エネルギー変換効率も見切った、ということだろう。


 使うことすらなく、ただ一度見るだけで《翔魂翼》の全容を掌握するなど、凄まじく理不尽な話だ。


 しかし、ガムラオルスは戦闘を続行する。武器を失いながらも、素手で突きを放った。

 当たればただでは済まない攻撃なのだが、ティアは避けない。


 貫手(ぬきて)が少女の皮膚を突き破り、内側の奥深くまで抉り込まれた。

 痛みに顔を歪めるティアだったが、口許は笑みが湛えられている。


「くそっ!」


 彼が拳を握り込むと、指や爪が少女の中身を混ぜ合わせながら、何かを掴んだ時点で止まった。


「もう……逃げないって……」


 息も絶え絶えだが、彼女の表情に弱さはない。


「決めたからっ!」


 瞬間、それまでの疲弊が吹っ飛んだかのように、彼女は明瞭な声でそう発した。

 それが掛け声の役割を果たしたのか、彼女はそのまま蹴りを放ち、ガムラオルスの腹へと痛打を浴びせる。


 その驚異的な破壊力により、彼は血を吐き出しながら吹っ飛ばされた。


 色鮮やかなままの、真っ赤な傷口が彼女の胸に開いていた。

 しかし、それは異物を排除した途端、瞬時に元の形に治っていく。


「ば、馬鹿な……」


 彼は手に握ったもの(・・)を見て、戦慄した。

 彼女は、自身の心臓を平気で捨て去ったのだ。

 少なくとも、彼を吹っ飛ばした瞬間には、完全に心臓がない状態で肉体が動いていたことになる。


 しかし、それは驚くことでもない。彼女にとっては、心臓が数秒――それこそ、数時間はなくとも影響はないのだ。

 肉体が死亡していたとしても、マナや導力を循環させることで意識は保てるし、肉体も駆動させ続けられる。


 これこそが、《星》の戦い方。人間の限界を超越し、人間の常識では打ち倒すこともできない怪物(・・)


「(まだ、俺はこいつに届かないのか――いや、そんなことはないッ)」


 彼はゆっくりと立ち上がり、再び翼を噴かした。

 強烈な蹴りにより、凄まじいダメージが蓄積しているが、彼の心はまだ折れていない。


 再度、直線的な動作で加速した。

 ティアは彼の姿をしっかりと捉え、無傷で倒せるという確信を得る。だが……。


「死ねッ!」

「死なないっ!」


 彼の拳が炸裂するが、ティアは全く引かず、同様に殴り返した。

 顔面に少女の握り拳が食い込むが、彼は必死の形相を浮かべ、再度攻撃態勢に移る。


「往生際が悪いんだよ! 死ねッ! 死ねッ! 死ねッ!!」


 怒濤のようなラッシュが叩き込まれ、彼女の体は壊れていく。

 白い肌は鬱血し、内部の肋骨は砕け散り、臓器に突き刺さっては傷を広げていた。


 だが、彼女が苦しむのは一瞬、すぐさま強気な表情になって彼を見つめ返す。


「死なない! 絶対に死なないっ! ガムランを――絶対にガムランを連れて帰るから!!」


 彼女の体から骨が吐き出された。それらは緑色の導力に包まれ、無理矢理体外に排出されたのだ。

 そうこうしている間に彼女の肌は再び白い色に戻り、失われた骨も修復する。


 体力が万全になるのは一瞬。そしてその一瞬の後に、彼女は凄まじい勢いでガムラオルスに反撃を行う。

 拳、蹴り、空中に飛び上がってからの回し蹴り。

 その全てが彼の体に直撃し、刹那の内に叩き込まれた攻撃により、ガムラオルスは吹っ飛ばされた。


 彼もまた、自身の体が悲鳴をあげているのが分かった。

 ティアは驚異的な再生能力を持っている。しかし、彼にそれはないのだ。

 今こうして意識を保てているのも、興奮が肉体を覚醒させているから。当然、肉体の負荷は一切減っていない。


「く……そ」


 意識が揺らぎ、立ち上がる為のエネルギー供給が滞るのを彼は感じていた。


「(俺はもっと……強くなりたい……あいつよりも、もっと速く、もっと……高く)」


 視界は真っ暗になり、意識が闇の中に沈もうとした瞬間、彼はそれを聞いた。


『もっと強く望め……お前より速い者を……お前より高くに居る者を……消したいと……自分こそが……最も……』


 彼は、見覚えのある闇の中に落ちた。


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