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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1167/1603

14f

 《翔魂翼》は驚異的な機動力、そして飛行能力を獲得する破格の道具だ。

 しかし、その反面《選ばれし三柱(トリニティア)》であっても無視できないほどの、ソウルの消耗スピードを誇っている。


 それもそのはずで、男一人を空中に留めるだけの推力を人体から出力しているのだ。

 もちろん、翼によってブーストが掛かり、ただのソウルを噴かすよりは効率がいい。

 それでも、力を常時放出し続けることが軽いはずがないのだ。


 迷いは禁物と、ガムラオルスは接近を開始した。

 負荷を掛けないように、そしてエネルギーのロスを減らす為、彼が探り当てた燃費の良い速度で走る。

 それでも速度は驚異的で、落下と共に加速もしていく。尾を引く残光も含めて、流星を思わせた。


「(捉えられている……このまま突っ込めば、カウンターの餌食(えじき)か)」


 いくら一直線の軌道とはいえ、かなりの速度を叩き出す彼を常時ロックし続けるのは容易ではない。

 その上、彼女は明らかに到達時間を読んでいる。これでは、彼の見込み通りに打ち返されるのが関の山だ。


「搦め手は……それこそ小賢しい手だな」


 小さな声で呟いた為、音は噴射音にかき消されていた。


 彼は加速を続行し、ティアへと迫る。

 彼女は蹴りの動作に入り、タイミングを測るように舌を跳ねさせていた。


「無茶は――承知の上だ」


 ガムラオルスは急激に推力を上げ、僅かに彼女の読みを越える。

 しかし、その誤差修正は凄まじい速度で行われた。目に見える速度ならば、反映に時間が掛かる――だが、放出される魔力量から、速度の上昇曲線は逆算できるのだ。


 激しい噴射音と、蹴りによる轟音、凄まじい音響の衝突は……。


「へっ……?」


 ティアの攻撃は空振りに終わった。

 しかし、ガムラオルスは止まらない。むしろ、最高速のまま彼女に迫っている。


「(フェイントなんて、なかったはずなのに……っ)」


 彼女はやむなしと、片手に風属性のマナを収束させ、突き立てられた剣に掌底(しょうてい)を叩き込んだ。

 腹ならばともかく、切っ先に打ち込んだところで弾けるはずもなく、剣は彼女の掌を貫通した。


「くっ……ぁ」


 痛みを堪え、彼女は歯を食いしばる。

 鋸刃(のこぎりば)が少女の柔い皮膚を抉るように進み、そして引き抜く時にも同様の感触が襲った。

 体が滅茶苦茶になる感覚を覚えながらも、痛みはほとんど伝達されず、違和感だけが広がる。


 普通の人間であれば一撃で失神するほどの痛み。

 しかし、彼女は《星》の体質を有するからこそ、通常の人間が鋸を引かれるような感触だけで済んでいた。

 逆を言えば、叫びを上げてもおかしくない痛みは十分に届いていたのだ。


 ガムラオルスは血振りをし、彼女を睨み付けた。


「防ぎきったか」

「え……えへへ……はは、どう、にかね」


 彼女は引きつった笑いを浮かべながら、答えた。

 無視できない痛み故に、無自覚に笑ってしまうのだ。泣き出すことさえ、できない。


「腕を吹っ飛ばすことができれば、もう少し早く決着がついたんだがな」


 彼が攻撃を仕掛けないのは、それが理由だった。

 元々は胴体を打ち抜き、一撃で決着を付けるはずだった。

 しかし、彼女が咄嗟に防御したことで、腕一本を目標に定めた――が、これも風属性のマナによって防がれた。

 ただし、攻撃は命中した。掌には大きな風穴が開き、血が流れ出している。

 彼女の中身(・・)は外気に触れる度、痛みに震えて主を疲弊させていくのだ。


 こうなってしまえば後は適当に時間を潰し、彼女が消耗しきるのを待てば良い。


 ティアは脱臼した肩を直すように、もう片方の手で押し込んだ。

 ただ、それは脱臼などではない。関節が外れるどころか、木っ端微塵に砕け散っているのだ。

 だからこそ、これはただ人間の形を留める為だけの行動。もう、片手は動かないだろう。


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