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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1165/1603

12r

「手を抜いているのか?」


 ガムラオルスは言葉を発した。忌避し、それを避けるために戦い始めたはずだが、聞かずには居られなかったのだろう。


「ううん、本気の本気」

「ならばなぜ、殺しにこない」

「……組み手って、よくやったよね。ずっと昔に」


 まだ、ガムラオルスが里にいた時のことを指していた。


「これも組み手だと言いたいのか?」

「うん。でも、ガムラン本当に強くなったね。昔は、私の方がずぅっと強かったのに」


 かつての二人には、大きな実力差が存在していた。

 こうして攻守に分かれて打ち合ったところで、ガムラオルスはただの一撃さえ浴びせられなかった。


 しかし、今の一戦は違う。ティアが全力を尽くしても、明らかに避けきれない攻撃が無数にあった。

 彼女からすれば、具体的に彼の成長が分かる一着だったのだ。


「ちょっと前、ガムランが里を出て行く前に戦った時より、もっと強くなったね」

「……それが、どうした」

「これで、ガムランの強さが分かったってことだよ」


 彼女は遊びなどではなく、本気で彼の実力を調べる為、(けん)に回っていた。

 認識の誤差を修正することで、決定的な場面での判断ミスを減らす。こと戦いに関することだけにいえば、彼女に抜かりはない。


「今ので、俺の全てが分かったとでも?」

「うんっ! きっとガムランが私を倒しきる時には、近接格闘(これ)を使ってくると思うから」


 そう言いながら、彼女は両手で殴るような動作を見せた。


「……」


 これがふざけた態度なのか、彼女の本心なのかは彼にも分からないことだった。

 しかし、言い分自体は正しい。

 神器の力は強力だが、彼女と(しのぎ)を削り合う戦いをするとなれば、決め手はやはり近接格闘になるだろう。

 彼の能力を完全に評価できていれば、詰めの部分で見落とすことはない。


「ならば、ここからが本当の命の取り合いか」

「……私はガムランを殺したりなんてしないよ」


 これ以上の問答は意味がないと判断したのか、彼は口を(つぐ)んだ。

 そして、今度はティアが攻めに回ってきた。


 怒濤のような拳と蹴りのラッシュ。

 動作の軽い拳打は、同じく拳によってブロックしていく。

 そして、一撃を浴びせられれば致命傷になる、という蹴りについては確実に回避する。


 攻守交代と言わんばかりの戦況だが、ガムラオルスは自ら守りに甘んじているわけではなかった。

 ティアのラッシュスピードに対応するのが精一杯で、攻撃に回る余裕が僅かにもないのだ。


 一発とも言える重い動作の蹴りについても、反撃に移るには隙が短すぎる。

 こうなると、彼女の疲弊を待ち、大振りの攻撃を避けた後に攻勢に出るしかなかった。


 彼女のスタミナは無限の如くにあるが、なにも本当に無限というわけではない。

 ガムラオルスは自身の消耗をセーブしつつ、受けてはいけない攻撃を避ければいい。

 対するティアは、ガムラオルスにダメージを蓄積させ、ダウンを取らなければならないのだ。


 反撃を許さない超速のラッシュともなれば、消耗の速度は桁違いに上がる。

 同じく風の一族であるガムラオルスであれば、彼女が疲弊しきるまで付き合ったとしても、スタミナ量で上回ることが可能だろう。


 一見、泥沼の戦いにも見えるが、そうではない。

 この戦い、ティアの側はともかく、ガムラオルスには猶予が全くないのだ。

 軽い一発であればまだしも、それなりに重い蹴りを喰らった時点で、収支はマイナスになる。


 彼の前提を成立させる為には、何百回という圧倒的数の完全回避を成立させなければならない。

 これが如何に困難であるかは、素人でも分かることだろう。


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