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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1163/1603

10f

 二人が辿りついたのは、風の聖域のすぐ近くの場所だった。


「……どうしてここを選んだ」

「ここなら、絶対に誰も来ないから。ガムランも知ってるでしょ? 風の一族なら、ここには近付けないって」


 彼は納得した。

 この地、風の聖域は風神(かぜがみ)とされる存在が住まう、聖なる地として知られている。

 そこに近づくことが許されるのは、風神に許された巫女であるティアか――新たに族長に選ばれた者くらいだ。


 つまり、ここには誰も訪れない。周囲への影響を考えず、自由に暴れられるのだ。


「礼儀知らずな女だ」

「ん? あー大丈夫大丈夫。ここで戦っていいかはもう聞いてるから」


 彼女は他の者達と違い、風神と面識がある。故に、ここをそこまで重んじる必要がない、ということも分かっていたのだ。


「どちらにしても関係のない話だ。もう既に風の一族ではない俺からすれば、ここで戦うことに(おそ)れなどはない」


 そう言うと、言葉が真実であることを示すかのように、剣を抜き放った。

 一族の人間であれば、この聖域にてそのようなことをすることが、どれほど非礼であるかは子供でも理解している。

 そして、真っ当に親からの教育を受けてきた者であれば、こうするだけでも畏怖によって震え上がる。


 だが、彼に震えなどはない。表情も穏やかで、一点の曇りもない。

 それもそのはずだ。彼は地上での生活――退廃的な生活の中で、根深く侵蝕した教えを引き抜かれてしまったのだ。


「……正直、ここでガムランが止まってくれなくてよかったって、思ってる」

「……なに?」


 彼女は少しばかりか影を含めた表情を見せたが、すぐに笑顔になった。


「私、ガムランと戦うの好きだったから。もう二度と戦えないかもって思ってたから――嬉しいの」

「戦闘狂が」

「かもね。でも、私って頭よくないから……きっと何を言っても、ガムランを説得できないと思うよ。だから――私の得意なやり方で、ガムランを連れ戻して見せるから」


 彼女は吹っ切れていた。自分が(すい)に向いていないことも、打算で人を動かせないことも理解している。

 故に、もう他人の土俵では戦わない。自分が最も得意とする、戦いによって彼を取り戻そうとしている。


 暴力でしか解決できない、という事実を嘆く者はいるだろう。

 だが、彼女にそれはない。ティアという少女は、ただ純粋に戦いを愛しているのだ。


「その方が勝手がいい。俺としても、これ以上無駄な問答は避けたかった」

「えへへ、それはどうかな? 私は、(これ)で話し合うつもりだからっ!」


 両手の拳をぶつけた後、彼女は右手でガッツポーズを取って見せた。


 相も変わぬ子供らしい仕草に、彼は呆れ果てるように片手で目を覆い、口許を緩ませた。

 そして、鋭い眼光で彼女を睨み付けながら、彼は言う。


「俺を、昔のままの俺と思うなよ」


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