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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
1162/1603

9f

「……やはり、ここだったか」

「覚えていてくれたんだ」


 ティアは切り株に腰掛け、麓の方を見ていた。

 そこはかつて、ガムラオルスが里を抜ける前にティアと会った最後の場所である。


 彼女がこの場所を気に入っていることは、彼も知っていた。

 ガムラオルスは一歩踏み出し、背を向けたままのティアへと近づく。


「構えろ」

「ガムラン、戻ってきてくれたんじゃないの?」

「……」

「ガムランが居なくなってから、ずっと後悔してたよ。あの時、もっと別のことが言えてたらなぁって」

「……」

「ずっと、謝りたかったよ。ごめんねガムラ――」

「俺をその名で呼ぶな」


 彼はティアの謝罪を許しはしなかった。

 彼女が何を言おうと、何をしようと、結果は変わらないのだ。

 ただ粛々と、殺し合いを始めるだけ。故に、そこで何かを話し合う必要性はなかった。


「ガムラン……なんで」

「俺はかつての俺とは違う。弱く、ただ無力だった頃の俺とは――子供だった時の俺とは違う」


 ガムラオルスは感情的になり、腰に差した剣に手を掛けた。


「もう、戻れないの?」

「……くどい」


 彼が踏み込みを行った瞬間、ティアはバッタのように跳ね、彼の背後に回り込んだ。

 無論、彼女の初動を追っていたこともあり、彼は移動の動作を取り消してから迎撃に移っていた。


 斬撃が着地地点を通過するが、ティアはその反撃さえも予見していたかのように、空中で落下の軌道を逸らしていた。

 紙一重――いや、切っ先が彼女の服を僅かに切り裂き、この攻防は終了する。


 二人は黙ったまま、そこで静止した。


「(ガムランは、やっぱり私の知っているままだ)」

「(……何のつもりだ)」


 ティアの方が読み勝ったかのような一着だが、そうではない。

 ガムラオルスはティアを捉えてはいたが、ティアという少女を見てはいなかった。


 彼女であれば、これはできるだろうという能力は、当然勘定に含めている。

 しかし、彼が最終的に優先したのが、敵対者としての評価。相手ならば、どうやって自分を終わらせに来るか、というところだった。


 つまるところ、ティアの着地地点では降下直後、もしくは降下中に攻撃を打つことはできない。

 降下、移動、攻撃という複数タスクを含む為に、攻めとしては無駄が多すぎた。


 故に、彼は読み違えた。

 現にティアは移動を一際せず、着地地点で行動を終了したのだ。

 これはつまり、初めから交戦する意志がなかった、ということを示している。


「私は戦いたくない」

「……俺から逃げられるとでも」

「追いつかれない自信はないけど、避けきる自信はあるよ。だから――私と戦いたいなら、ついてきて」


 奇妙な提案だった。

 だが、ガムラオルスは剣を収める。

 彼女が誘導によって罠にはめることや、有利な地形に持ち込むことはないと断じていたからだ。


 二人は敵対者同士でありながら、共に道を進んだ。

 隙だらけにも見えるが、二人に油断はない。不意打ちを仕掛けたところで、互いに仕留めきることはできないだろう。


「みんな、ガムランを待ってるよ」


 唐突に、彼女は口を開いた。


「ガムランはきっと怒ってるかもしれないけど、みんな謝りたがってるの。私も……」

「俺の居場所は、ここではない」


 ここにはない、ではなく、ここではないと彼は言った。

 少し前まで虚無に陥っていた彼だが、今は違う。スケープという女も、火の国という故郷(くに)もある。


 彼女が知らないうちに、ガムラオルスは地上で多くのものを得ていた。

 もちろん、それを言ったりはしない。

 彼としても、それは副次的に得たものでしかなく、見返す為に手に入れたものではないのだ。


「は、早く戻ってこないと、ほんとに戻れなくなっちゃうよ! エルズがガムランの代わりに――」

「なら、それでいいじゃないか」


 彼と違い、ティアは今もなお子供であった。

 彼が飽くまでも地上での生活を選ぼうとするのを聞き、嫉妬させようと――もしくは、焦らせようと現状を口にしてしまったのだ。


 ただ、それは何かを持っている人間には何ら意味のないこと。


「だが、忘れはいないか? 俺はこの山を取りに来た。お前(・・)を倒し、火の国への土産とする」


 もはや、二人の戦いは避けられないものになっていた。

 いやむしろ、止められるなどと思っていたのは、ティアくらいだっただろう。


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