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要地襲撃部隊は三名毎に分かれ、ガムラオルスに指示された場所をほぼ同時に叩いた。
とはいえ、ほとんどの場所は勝負を決めきるには不足とし、火属性の術や松明を投げ込み、燃やすだけに留めている。
確かに、風の一族は人間を越えた能力を有していた。
しかし、彼らが強くとも、建造物が強固になるわけではない。
むしろ、山での比較的原始に近い生活をしている以上、地上のそれには及ばないのだ。
瞬く間に火は広がり、布は燃えさかり、骨とも言える木製部分を燃焼させる。
近くにいた者、内部にいた者、遅れて助けに来た者達が風属性を使って吹き消そうとした。
だが、多くの火は小規模な風で吹き消せるレベルを越えており、むしろ火災の度合いを高める効果しか持たない。
彼らとて、火の性質くらいは理解している。
風属性の使い手ということもあり、火起こしにおいては術なども用いているのだ。
ただ、今は焦りも強く、早急に消す手段としてそれしか思いつかなかったと言うのもある。
そして、戦士達は肝心の侵入者を捉えることもできず、消火作業に追われることになった。
そうこうしている間に、ばらばらに突入した三名のチームはそれぞれに族長テントへと向かう。
とはいえ、最初に突入したチームが既に制圧を終えており、後続のチームはこれを盤石のものにするという具合だった。
「こいつが族長か?」
「ああ」
ウィンダートは黙ったまま、座していた。部屋には女性や子供も居た。
隊員達はこの威厳に満ちた男が族長だと判断しているが、大きく間違ってはいない。
シナヴァリアはティアが族長である、ということを伏せていた。
それは自分の対処する相手であるから、ということもあるだろう。
しかし、本音としては彼女を族長などとは認めたくない、という男の性によるものだ。
しばらくすると、入り口の幕が上がり、一人の隊員が顔を覗かせる。
「全員集結したようだ」
「……よし、なら里の全員に降伏勧告だ。《魔技》を使える奴は――」
「合格ね」
突如として聞こえてきた子供の声に気付き、全員が辺りを見渡した。
「誰だ声出した奴は!」
「黙ってんじゃねえぞ!」
見渡すが、ほとんどの子供は――女性もだが――彼らの粗野な態度に怯えている。
「静かにしてくれない? 逃げはしないし、隠れもしないわ」
そこでようやく、声の主を見つけた。
族長の隣に堂々と座りこむ、一人の少女。長い髪は周囲の緑を拒絶するように、藍とも紫とも言える色をしている。
「なんだてめぇは!」
「ぶっ殺されてえのか!?」
「さすがは火の国の人間。粗野で乱暴ね」
隊員の一人が手をあげようとするが、止める者は誰も居ない。
なにも、彼らは平和的手段でこの里を攻略しに来たわけではないのだ。
脅しの材料としては、族長一人で十分であり、子供の一人や二人を殺したところで影響はないと見ていた。
しかし、屈み込もうとした瞬間、男はそのまま崩れ落ちた。
「おいおい、なんだよ」
「ずっこけてんじゃねえよ」
隊員達は笑うが、しばらくしても起き上がらないことを見て、顔が強ばる。
「な、なんだ! 族長、てめぇの仕業か!」
「抵抗すんなら、ここの女やガキを全員ぶっ殺してもいいんだぞ」
「三つ数えるまでに、それができるなら上等な部隊ね」
「は? 何を言って――」
男達は次々と倒れていき、テント内は一気に静まりかえった。
「一人目の時点で幻術に警戒しないなんて、論外ね」