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「櫓の位置、土地の状態に変化なし……よし、作戦通りに攻め込むぞ」
ガムラオルスが事前に説明したのは、状況が当時のままと同じか否か、それを調べてから攻め込めということ。 誤差が生じた場合は、作戦の有効度は激減する。この場で言えば、相手の監視施設や死角などが健在かを調べるという具合だ。
彼らは観察事項を全て埋め終えると、手で合図を送り、侵入を開始した。
森を抜け、草むらを突破した瞬間、十数名の風の一族が彼らを出迎えた、
「なっ……」
予想を超える人数、そして事前警告を受けていたとはいえ、奇襲が予見されていることに驚いたようだ。
その反応を見た瞬間、戦士達は勝利を確信する。文官衆の指示が正しいものだった、と分かったからだ。
「圧殺しろ!」
「ぐぅっ……凌ぎきれ!」
それぞれが命令を発し、それぞれの戦いを始める。
攻めに特化し、怒濤のように攻め込んでくる一族に対し、部隊の人間は防御――というより、後退しながら受け流していった。
圧倒的優位を確信している戦士達に対し、隊員達は今か今かとその時を待っている。
いや、早く来ないものかと焦っていると言うべきだろうか。
そんな彼らの期待に応えるように、正面から侵入に成功した。
突入部隊は全く守りがないことに気付くや否や、事前にされていた奇襲地点に向かい、一族の背面を取る。
こればかりは戦士達も予想していなかったらしく、完全な不意打ちが成立――戦力差こそあれど、完璧に挟み撃ちが成立した。
相手は人間を越えた超人類。ただ、彼らは真に人間の種族から逸脱しているわけではなく、不死身でもなければ驚きもする。
攻撃開始前に察知することで、全くの無防備だったわけではないが、対応の遅れは明確に現れた。
初撃の斬撃、槍の一突き、斧の振り下ろしなどが炸裂し、確実に手傷を負わせた。
痛みや流血により、彼らは事前に周知されていた作戦を放棄し、独自に戦闘を開始する。
通常の戦闘であれば、陣形の差との相乗効果により、混乱した敵戦力はすぐさま打ち倒されるはずだった。
事実、奇襲部隊や突入部隊はそう確信し、僅かばかりの油断を見せている。
だが、紛れもなく彼らは戦闘の天才。作戦行動をする以上に、天性の直感が正しい選択を導き出すのだ。
全員は対処を一時的に放棄し、大人の背丈を軽々と超える跳躍をし、人間の壁を楽々と突破する。
これには両部隊の隊員も驚いたらしく、挟撃による優位が一瞬で吹き飛んだことに愕然とした。
彼らは里の側に跳んだこともあり、内部への侵入は完全に封じられる。
それ自体は判断ミスや、保守的な手にも見えるが、彼らは明確な目的に従っているだけだ。
挟み撃ちの形に持ち込もうとすれば、多少の穴が生まれる。
そこを衝くほどの実力は彼らにないのだが、それでも警戒した上で、確実に潰しに来た。
さらに言えば、風の一族はここで敵を殲滅する必要はないと見ている。
ここで痛い目を合わせさえすれば、恐怖を喧伝させ、今後の攻撃を防ぐ効果が見込まれるのだ。
つまりは、ある程度嬲ってから逃がす。故に、逃走路は潰さないのだ。
戦局は当初の見立て通り、一族側の圧倒的優位。このまま押し切られるかと思われた時、何人かの戦士が気付いた。
「煙……」戦士は鼻を盛んに動かす。
「まさか、内部への侵入を許したか!」
正面をがら空きにしていたことからも分かる通り、戦力は奇襲予測地点の幾つかに分散されている。
彼らは戦闘の気配を察知し、今この場に近づきつつあるのだが、それ故に別の隙が生まれてしまった。
「あちらの救援に向かうぞ!」
「おう!」
戦士達は散っていくが、それを二部隊は止めない。当たり前だ、ここで止めようものなら、自分達の命が危ないのだ。
しかし、全てが去るわけではない。彼らを止めるべく、数名の戦士だけが残る結果になる。
「これなら勝てるかも知れねぇ」
「やるぞ!」
彼らは気付いていない。風の一族がこの一着で戦力分析を終え、十分な戦力を置いていったということを。