対決! ガムラオルス対ティア
――光の国、ライトロード城にて……。
「法王のことについては、お悔やみする」
シナヴァリアは法王バールの側近であるバルバを前にし、平然とそんなことを言ってのけた。
彼を殺したことについては一切悔やんでいないとばかりに、普段の仏頂面のままだ。
「……まさか、法王が民を裏切り、魔物と結託していたとは思いませんでした。私は彼を尊敬していたのですが……これは、神の裁きだったのかもしれません」
バールの暗殺後、シナヴァリアは情報を首都全体に周知した。
教会が黒であるならば、ここで止まるという判断からの行いだったが、これは速やかに行われている。
アルマの証言もあり、教会の人間はほとんど知らないままに動き、利用されていただけということで決着がついたわけだ。
そうして、認めたくはない者は多くとも、その事実は全員の認識に加わっていた。
今、こうしてバルバと会っているのも、今後の国家運営を語る為である。
トップが不在になった今、教会の全権は一時的にこの男が握っているのだ。
教会全体が魔物と関わっていた、となると混乱はより大きなものになるとし、バールを主犯とした上でバルバを代理に据えることは二人も承知している。
「バルバ氏には、民の混乱が広がらないように務めてもらいたい」
「もちろん。教会の長として、それは約束しましょう――宰相は、こちらに残られないのですか?」
「私は戦場に戻る。任せてきた男は優秀ではあるのだが、私のような男がここに居ては、邪魔になるだろう」
バールとシナヴァリアのやり取りにより、民の心証は相変わらずの悪いものに戻っている。
いや、そもそも彼は公式上、国の金を勝手に使った悪人なのだ。それは何をしても変わりはしない。
「では、私もしばらくは彼に同行しましょう」
「えっ、ダーインさんも!?」
「姫、申し訳ありません。ですが、あちらで私が仲介したほうが、都合の良いことも多いので」
具体的に言えば、あの場にはタグラムが待っているのだ。
そこにシナヴァリアだけが戻ることになれば、軋轢が生じるのは明白。
そもそも、今回の東部戦線の維持についても、ダーインが彼に頼み込んだ形である。シナヴァリアとタグラムは、依然として不仲だ。
「余計なお世話だ」
「大きなお世話ではなければ、それでいいかと――それと、こちらの兵の大部分を首都に帰還させます。それについては」
「……ええ、分かりました。今回は兵の不足故に、ことがあれほど大きくなりました。お二人のおっしゃる通りにしましょう」
内心、ダーインはほくそ笑む一方で、驚いていた。
バールが諸悪の根源だった、ということに関して懐疑的な彼は、教会の浄化具合を確認しようとしている。
具体的には、教会の行った悪政の是正、そして自身は一線離れた場所からそれを見るという具合だ。
良くも悪くも、今回は教会の監視下から外れていたからこそ、相手の尻尾を掴むことができた。
そして、土壇場で戦場を離れることで、救援を間に合わせることもできた。
相手の制御下に加わった際のデメリットを考慮した上での行動だったのだが、どうにもバルバという男には邪心は感じ取れなかった。
「お尋ねしたいのだが、件の政策は誰の考えた者は?」
「バールを通じ、正統王家の当主が」
「……なるほど。では、当主に全権の移行も願いたい」
それを発したのが正統派の人間ということもあり、シナヴァリアは眉を顰めた。
しかし、肝心のバルバは「分かりました。ですが、補佐は立てなくても大丈夫ですか?」と受け入れる体勢を示した。
「王には私から助言をしておきます。それで問題はないかと」
「分かりました。では、教会は一線を退くとしましょう」
あまりにもことが上手く進むことに気味の悪さを覚える一方、余計な手間が掛からなかったことに安堵する節もあった。