27C
――光の国、ライトロード城にて。
兵達が一時の休息をする中、シナヴァリアとダーインはすぐに合流し、動き出そうとしていた。
「ダーインさん、どこに行くの?」
「……法王バールを追及します。彼はまだ逃げていません……早めに決着を付けますので、姫はこちらでお待ちを」
「やだ! あたしも行く!」
「姫はこちらに残っていてください」
シナヴァリアは仏頂面だったが、それはいつも通りのものではなく、明らかに威圧しているような表情だった。
アルマは引きそうになるが、それでも踏みとどまり「あたしは教会の聖女だもん。見届けなきゃ」とそれらしい理屈を付けてみせた。
「あなたを人質にするかもしれません」
「こんなあたしでも、バールさんに負けるほど弱くはないよ」
「……」
「宰相、我々は話し合いに行くのだ。姫がいたとして、それは問題ないことであろう」
ダーインはアルマの意志を尊重し、彼女の同伴を許した。
しかし、それはただの感情論などではなく、口にしたとおりの理由である――つまり、宰相に話し合い以上のことをさせない為の手。
もちろん、大貴族がそういう皮算用であろうことを理解したシナヴァリアは、露骨に嫌悪感を示した。だが、それでも拒絶はしない。
「分かりました。危険と判断し次第、逃げてください。今度こそは、きちんと」
「……はい」
逃げろと二度も言われ、それを両方とも撥ね除けたことは、彼女も反省していた。
結果的にそれが正しかったとはいえ、決して利口な行動ではないと彼女も理解している。
「では、行きましょうか」
ダーインが音頭を取り、三人は城を発った。
事前に二人が呼び寄せていたからか、法王バールはその立場に相応しくない裏路地に、一人で来ていた。
自分で呼びながらも、元中枢職の二人は驚いていた。
当たり前だ。彼ほどの男が、条件を定められたからと言って無防備な状態を晒すなど異常である。
「護衛は?」
「呼ぶな、と言ったのは君たちだろう?」
「ここに来るまでには、付けておいても良かったのですが」
「退ける手間が増えるだけだ」
一先ず納得し、ダーインは語り出した。
「法王、あなたが行った悪行は調べがついている。これを公開すれば、ただでは済まないだろう」
「同じ問答を繰り返すつもりか?」
「……認めないのであれば、あなたを牢に幽閉するだけ。認めるのであれば――」
「許す、とでも言うつもりか」
大貴族は少し迷った後「許そう」と言った。
「君たちが嘘をついていることを、私が見破れないとでも? 長き年月、教会を治めてきた私を侮らないでもらいたい」
「……ダーイン、この男に幾ら言っても無駄だ。ここで始末する」
そう言い、手刀を構えたままバールへと近づいていこうとするシナヴァリアを見て、アルマは両手を広げて立ちふさがった。
「シナヴァリアさん、そんなのよくないよ!」
「姫、退いてください。この男を始末しない限り、魔物の被害は減りません――民の為です」
「それは……そうだけど。でも……」
そんなやり取りを見ていたからか、法王は笑い出した。
「やはり、ライトロードの民ではないお前は、この国には相応しくない。ただ混乱を作り出すだけだ」
「……なに?」
「事実ではないか。お前は自身の欲望の為だけに、民を混乱させた。民の血潮を勝手に使い、自身の保身を図った。愚かな異教徒の人間だ」
明らかな挑発だったが、宰相はらしくもなく、これに激昂してアルマを進路上から退かした。
力の強い彼に敵うはずもなく、アルマは脇に押しやられ、勇んだシナヴァリアはバールに迫る。
「私がこうした方が、お前にとって好都合だろう……何が狙いだ?」
「さすがに違えぬか。我が所業をこの身に秘め、お前に殺されることで痕跡を消そうとしたが――そうはしないだろうな」
それは、実質的な自白だった。
「認めるのか」
「……そうだな。お前が私を殺せぬと分かったならば、教えても構わないだろう。私が、魔物の手引きをしたという読み、間違ってはいない」