26y
戦いは終結した。
周囲を覆っていたオーロラは次第に薄れていき、皆の体に漲っていた力もすっと抜けていく。
「おわった……のか?」
「勝ったんだ! ぼくたちが勝ったんだ!」
この戦いに携わった全ての者達が――軍人も、民もなく、全員が手を取り合い、感動を分かち合った。
「姫様、やりましたね!」インティは笑みを見せた。
「……うん、うん! やったね!」
人の心が一体になる感覚が、彼女の中を満たしていった。
もう、《星の秘術》の効果は切れている。それにもかかわらず、彼女が――いや、誰もがそれを感じているのだ。
「シナヴァリアさんも、ダーインさんも、お疲れさま!」
戦いが終結し、彼らもアルマの近くに戻ってきた。
「いえ、あれはアルマ姫が皆を信じたからこそ起きた、奇跡ですよ」
「それについては、認めざるを得ないな。姫がいなければ、間違いなく我々は終わっていた」
彼女はこの場に集まった全員が、誰一人欠けることなく勝利できたことを、心の底から喜んでいた。
しかし、すぐにもう一つの気掛かりが見つかり、辺りを見渡す。
すると、周囲の雰囲気とは交わることなく、思い詰めたような表情をしたバールが目に入った。
「あっ、バールさ――」
「皆、これこそが祈りの力だ。神は常に我々を見ている。そして、調和を重んじたからこそ、この場で我々を救ってくださった」
その声を聞いた瞬間、全員はこの戦いに加わっていた一人の老人が、法王であることを思い出した。
「これは姫の力だ。神など関係は――」
「法王バール、お前があの魔物の手引きをしたことは、調べが付いている」
正統派の人間としての意見を述べようとしたダーインを遮り、シナヴァリアは法王を糾弾した。
「魔物? なんのことだ」
「とぼけるつもりか? 各地の町村を巡り、人間を魔物に変異させていた、ということは分かっている」
「――で、あるとして、そのようなことをする男が魔物と戦うべく、この場に来るものか?」
民の多くが、法王の意見に賛同した。
彼の言い分が正しいこともそうだが、シナヴァリアは本来、ここに居るべき人間ではないのだ。
「元宰相、職を辞したはずの君が軍の指揮を取り、この場に来たことのほうが異常だと思うのだが」
「……」
「上手く責任と刑から逃れ、軍内部では元の通りに権威を握っている。あれほどのことをしながら民を騙し、未だに権力に縋る君の言葉に、どれほどの正しさがあるというのだ」
この発言、実のところ相当に重いものだった。
シナヴァリアを更迭に追いやったのは、神皇派のタグラム。この件には教会は一切介入しているのだ。
魔物の件で追及を行ったところで、この叱責を完全回避することはできない。
「民を味方に付け、逃げ果せるとでも?」
「何が正しいのかを判断するのは神だ。人が人を裁くなど、傲慢にもほどがある」
「教会がそれを口にするのか」
「……魔物は討たれた。くだらない問答をする時間なら、いくらでもあろう――今は、神の与えてくださった恵みを感謝し、祈りを捧げるとしよう」
証拠はいくらでもあった。
しかし、この場で証拠を見せたところで、民を納得させられるとは思えなかった。
結局、シナヴァリアとダーインはそれ以上追及することはなく、ほどなく皆は首都に戻っていった。




