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戦場に先んじて到着したのは、子供だった。
それに続くように、多少は鍛えられた肉体を持つ男達が続き、女性や老人に至るまでがこの危険な戦場に到達する。
「俺達も戦う力があるんだよな。なら、戦わなくちゃと思って」
全員の身がプリズム光を放ち、《光の門》のエネルギー供給が成されていることが確認できた。
「うんっ! みんな、ありがとう!」
感動するアルマの前に、予想外の人物が現れた。
「戦うことを良しとするわけではないが……居ても立ってもいられなくなった。年甲斐もなく、な」
法王バールは教会の戦士達を引き連れ、この場に馳せ参じた。
子供や老人が参加している時点で、そこまで驚きでもないように感じられるが、それでも大物が自ら戦場に足を運ぶというのはただ事ではなかった。
「有象無象で子供達を倒せるなんて、侮られたものね」
その言葉に反応するように、皆は拳を掲げ、近接部隊に合流した。
予期せぬ素人の助太刀に、軍人達は困惑するが――戦いを全く知らないはずの彼らは、平時の騎士達に迫る機動力で戦闘を開始する。
「これはどういう……」
「戦い方が分かるんだ! こりゃすげぇ」
驚くべきことに、彼らは軍人達が積み上げてきた経験を共有しており、肉体がそれに遅れを取ることもなかった。
子供の振るう木の棒、大人の持つ干し草用フォーク、鎌や斧、主婦のフライパンや箒に至るまでが業物の如く破壊力を獲得している。
むしろ、これは当然のことだった。
人間が持つ力や、人間が作り出した武器などは、正の力の強化数値を考えれば誤差も同然なのだ。
その上、彼らの到来を確認するや否や、アルマは精神の接続を再開している。
それによって、軍の構築した戦闘技能が全員に逆流し、経験として還元されたのだ。
この経験、というのが重要である。今に限って言えば、全員が半年以上に渡る戦いを生き延び、無数の死線を潜ってきた者である。
彼らは紛れもなく、それを経験している。知識などではなく、確かに存在した過去であるかのように。
だからこそ、何を頼りにすればいいのかも分かっている。何がどれだけ正しいものであるのかも、分かっているのだ。
『軍は有色幼体を……民は白い幼体の撃破を優先しろ』
憎むべき汚職宰相であるはずのシナヴァリアの命令だったが、民は誰一人としてそれに抗おうとしなかった。
それこそが、彼らの置かれている状況を如実に示している。
今初めて、彼らはシナヴァリアがどれだけ前線を支えてきたのかを認識したのだ。
そして救われた命に報いるように、また傷つかない為にも、私心を捨ててそれに従うことができる。
その上、彼らには明確な伝達が必要ない。ただ考えるだけで、必要な情報が流れ込んでくるのだ。
故に、攻撃対象が被ることはなく、死角は完全に消え去る。
ある意味の理想郷。人々が相互に理解し、求めるものもできることも自動的に開示し続ける状態。
器官によって相互接続網ができない人間では、どれだけの時間を要しても実現できない、文字通りの理想。それが、ここには実現していた。