21y
凄まじい光が周囲一帯に拡散し――ゆっくりと元の状態に戻っていく。
「何をするかと思ったら、ただのハッタリかい。つまらないことをするものだねぇ」
明らかな呆れを見せる魔物だが、それはライトロード側にしても同じことだった。
「(攻撃ではないのか……?)」
シナヴァリアはもちろん、前線で小型ローチと戦う者達でさえ、これには期待外れという反応を見せた。
しかし、すぐに気付く。魔物を除外した、純粋な人間のみが知り得る情報として。
『みんな、あたしの声が聞こえる?』
誰もが顔を見合わせ、そして同じ声を聞いていることを確かめた。
『今、みんなの意識を《光の門》で繋いでいるの。首都の近くにいる人達、みんなにわたしの言葉を聞いてほしいから』
それを聞くと、ダーインは何かに気付いたらしく「あの虫を薙ぎ払え! 今の我々は巫女様の庇護下にある」と高らかに宣言した。
理解できないままに、しかしやることは変わらないと戦い出す者達を見て、彼は改めてアルマを見つめる。
『《光の門》を通じて、みんなに正の力を……すごいパワーを送ってるから、みんなで戦えるの!』
「みんなで……?」
シナヴァリアは意味を理解できなかったが、戦況を見た瞬間、彼女の発動した術の効果を把握した。
驚くことに、先ほどまで押されていたとは思えないほどに、騎士達はローチを圧倒していたのだ。
「すごい! 力が溢れてくる……負ける気がしない!」
「これが《光の門》の――巫女様の力……っ!」
強化系統の術とは比較にならない強化が、そこに成立していた。
戦う者達の体は虹の七色に発光し、その機動力は風の一族のそれを思わせる。
さらに、それだけには止まらず、斬撃に至るまで正エネルギーによる強化を帯びていた。
剣が魔物の外皮に触れた瞬間、《皇の力》が対消滅を起こすように、接触面を分解していく。
恐るべきは、《皇の力》とは違い、正の力が無尽蔵に供給されるということ。
対消滅によって力は消えるが、その直後には同量が補給され、鋸の歯で木を削るような斬撃が成立している。
「これが……姫様の《秘術》!?」
「アルマ姫らしい術だ」
ダーインはアルマが編み出した《秘術》、そこに込められし願いを読み取った。
「姫は人の心が乱れ、世が乱れ、変わってしまった光の国を元に……いや、かつてあった理想を今も尚、目指し続けたからこそ、こうした術を成立させられたのだろう」
「平和だった頃の、光の国か。託されるには、重すぎる理想だ」
大貴族は口許を緩めた。
「まさか。姫が我々、軍人にだけそれを託しているはずがなかろう。あのお方はこの国の民、全てにその願いを伝えたのだ」
彼の口調は明らかに変わっていた。
今、ここに居るのは指揮官のダーインではなく、正統派の筆頭であるダーインなのだ。
『お願い。首都の中に居るみんなも、あたしに……あたし達に力を貸して! みんなで、魔物を倒すんだよ!』
彼女の言葉は、城壁の中にいる民にも届いている。
そして、この言葉は《光の門》を通じて発せられている為、頭に直接届く。
辛い現実から目を背けようとも、耳を覆ったとしても、それは真に理解できる心の波音として響き渡る。
『でも、俺達じゃ』
『軍の人と違って、私達じゃなんの役にも』
『ぼくも戦いたいけど、子供のぼくじゃ』
当然のように、否定の声が聞こえてくる。その声は意識の中で反響し、接続中の全員に共有された。
心の声さえも隠し通せぬ状況ながらも、多くがそう思っていた。だからこそ、隠せない本音を恥じる者はいなかった。
『あたしだって、何もできなかったよ。みんなを守ろうって、一人で頑張って……でも、あたしにできたことなんて、ちょっぴりだったよ――でも、教えてもらったの。一人じゃなくて、みんなで一緒ならいーっぱいのことができるって!』